審査委員になって二回目を迎えました。一回目に応募した人が少ないと聞いて、意外に思いました。だが、考えてみると応募される方は、短い文章の中に、現在までの全てを語り尽しておられるからでしょう。次回からはテーマをもっと広くした方がいいのではないかと提案しました。今日一日の出来事とか、今日一日に感じたことの方が迫力のある現実と真実が語られるような気がします。
今回も、それぞれのテーマで力作が寄せられました。海外からの応募も爽やかな内容でした。一回目、二回目と門戸が開かれていくのがわかります。
今回の高橋勝利氏の『点字が私を変えた』は、四十歳を過ぎてからの失明の混迷から十年の歳月を経て自己確立の道を歩む道程が書かれています。読書の楽しみを失い、歩行困難を助ける白杖に抵抗を持ちながら視力障害センターに通う間に白杖が伝えてくれる情報を掴み取る行動の段階と点字と苦闘しながら、未知の世界を克服していく努力が、これからの中途失明の人たちに、どれだけの励みを与えるかを深く考えさせられる内容で、文章の中に奥さんの姿が点景のように登場しますが、そこに夫婦の愛情が刻みこまれているのがわかりました。
小林恵津子さんの『私の挑戦』はテンポよくカフェランチのコンテストに息子さんと挑む家族の姿が活写されていて、心地よい緊張感と興奮度が伝わってきました。一人の人間の幸福度は、常に達成感≠ノ支えられていると読む者に伝える力倆が短い文章の中に宿っているのがよく分かります。
大川徹氏の『点字が私を変えた』のクラシックとの出会い、上林洋子さんの盲導犬と登山、片岡兵馬君の母と自分との絆、いずれも人生の深い滋味を伝えてくれる作品で、この先をさらに切り拓いて行く夫々の方の真摯な情熱を読む者に届けてくれる内容でした。
私の友人が七十歳の時に突如視覚を失いました。六カ月は悶々としていましたが、二年目には安らかな表情になり、
「今まで見えなかったものが見えるようになった」
といったものです。
この強靭な精神の軸には、決して諦めないという考えが宿っていると思いました。
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