■海外の部 EBU地域 優秀賞
(シニア・グループ)
「手」  チェコ共和国 ジャーミラ・ホッケステゲローバ(47、女性)

  ゆったりと腰を下ろし、私は手を触っています。感触を確かめながら、まるでここ数年の思い出が詰まった点字盤を触るように、自分の手を触っています。私のことをよりよく理解してもらうには、私が視覚障害者になってからわずか3年であること、この手が私自身と、永遠に失われてしまった視覚世界との間の橋渡し役になっていることを知っていただければと思います。
  私の片目、当時はまだ見えていた方の片目の網膜が巻物のように巻きあがった時、周りの世界は奥深い暗闇に沈みこんでしまったかのようでした。しかし私は、手で世界をもう一度見つけることができました。脳はもはや目とはつながっていなくても、指先とはつながっているのです。そして、これは指で触れて読むための必須条件なのです。その結果、私の手に与えられた次なる役目は点字を学んで読むこととなりました。
  「まずは、手の触覚に磨きをかけることが必要だ」。私の点字の先生であるジャックは、初回の授業で真っ先に言いました。そして彼は、私の両手の下にエンドウ豆とソラ豆とでいっぱいになったボウルを置いたのです。「最初の休憩時間までにこれをより分けておくように」
  私はこの難しい作業を30分で終えました。そうすると先生は、浮き彫りの絵を出してきて、それらが何か言い当てるよう指示しました。「OK、これは古い中国。これは宇宙の中心。それから次は……。今度は古いボヘミアのお城、カールスタインですね。他には?」
  「よくできました。それでは文字に入りましょう」とジャックは言い、点字盤を私に手渡しました。この点字盤とは親密な関係になるのが容易ではなかったと正直に認めざるを得ません。私は新入生として、一つ一つの文字に骨を折っていました。
  「先生、ちょっとばかげた質問をしていいですか?」。自分の手が言うことを聞かないように思えた時、点字の先生に慎重に尋ねました。「私は点字の仕組みを学びたいと思っているんです。本当に思っています。でも、デジタル録音機器や携帯電話、コンピューターがあるこのご時世、点字というのはいささか時代遅れではないのでしょうか?」
  「ジャーミラ」、ジャックは驚いたように言いました。「一つ例を挙げてみよう。この学校の建物には50ほどのドアがある。もし私が君に、この建物を回って、それぞれのドアがどの部屋に通じているのか調べるように言ったとして、君の録音機器や携帯電話、コンピューターが役に立つかい? 他の生徒たちはここのドアには50のドアノブがあって、点字の打ってあるラベルがそれぞれに張ってあるのをもちろん知っているよ。これで分かるかい? もし君が本当に独立して100%の自給自足をしたいなら点字の読み書きは不可欠だよ。今言ったドアの例えは、ここが特別な施設だから確かに例外的ではあるけれど、でも今日、点字は他の多くの場所でも使われている。家でも、CDのケースから個人的な書類フォルダーに至るまで、点字ラベルは不可欠だ。君への次回までの宿題は、点字ラベルがあるととても役に立つという場所をすべてリストアップすることだ、いいね?」
  その時、私は彼が全く正しいと分かりました。私はもう、ぶつぶつ文句を言うこともなく、このいまいましい点を征服してやろう!と、心に決めたのでした。今や私に与えられた宿題は本当に簡単に思えます。ベルのボタン、病院やあらゆる公共建物でのエレベーターのボタン、ATMの操作パネル、飲食店の自動販売機、フィットネスセンターのロッカー、展示品、植物園にある植物の名前、レストランのメニュー……、これらすべてに点字がつけられます! そして、このリストは永遠に増えていくのです!
  しかし次の授業では、この素晴らしい考えを発表するのでなく、代わりにショッキングなニュースを聞いたのです。ジャックが車の衝突事故に巻き込まれ、右手の指にひどいけがをしたというのです。
  ジャックがゆっくり回復しつつある間、私は何とか点字のアルファベットを身につけ、理学療法の訓練を始めていました。
  一度、私たちは廊下で偶然会いました。ジャックは療養患者、私はほぼ一人前の理学療法士になっていました。
  「ええっと、元気? ジャック。それと手の方はどう? いつごろからまた教え始めるの?」。彼への言葉がどっと出てきました。
  「手は大体治っているんだ。でも触った時の感覚がなくなってしまって怖いんだよ。もう点字を読めないんだ。ただ、少なくとも左手はまだ残っているけど」。そう言ってため息をつきました。
  「駄目、駄目、絶対に駄目よ! 本当の男ならどうして闘うことをあきらめるの!」。私は怒ったように大声をあげました。「私たちは役割を交代するのよ、今からね。私はあなたの先生よ。いろんな形の小さなビーズが入った箱を持っているの。あなたの課題は手の感覚が明らかによくなるまで、それをより分けることよ。いいわね?」
  「いいとも!」。ジャックは笑って私と握手しました。彼と別れてからも、私は彼の異様にやわらかく、まったく血の気のない指の感覚を感じていました。
  ジャックは指の訓練を続け、その間に私は理学療法士の訓練プログラムを卒業しました。私は国際修了証明書とセラミックでできた記念メダルをもらいました。メダルの縁に沿って浮き彫りの字と点字で「理学療法士2007」と刻まれています。中央には……、何だと思いますか……? 小さな手が描かれてあるのです。

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