海外の部 EBU地域 ジュニア・グループ 佳作
「ルイ」
イギリス  アレクシア・スローン(18歳・女性)

その家に越してきてから、夜中になると妙な音が聞こえていた。それはとてもかすかで不鮮明な音だったので、数週間は夢を見ているのだと思っていた。
トントントントントントンカチッ。病院で測定器が発する音を思い出させるような音も聞こえた。カチッカチットン、そしてまた測定器の音。もうたくさんだ。「きっと風が屋根に当たる音に違いない」、と自分に言い聞かせた。
でも気になって、懐中電灯を持って音のほうに向かった。階段を下りて1階へ、そしてさらに地下へ。地下への階段を一歩降りたとたん、音が止まった。静寂。さらにそっと一歩。また音が止まった。そうして地下室に入った。小さな窓から一筋の月の光が差し込んでいる以外、あたりは真っ暗。
その小さな地下室は本や書類などの物置として使っていた。なので、そこにはめったに来ることはなかった。特にそこに来る必要もなかったから。壁に沿った棚には本がぎっしり入れられ、床にも束ねた本が置かれていた。こんなところで、誰かが何かをしているのだろうか?まったくわからない。お母さんがミシン掛けをしているのか?それともお父さんがDIYで何かを作っているのだろうか?そこにはだれもいなかった。
そこで寝室に戻ろうと後ろを振り向こうとしたまさにその時、風のせいなのか、それとも幻覚だったのか、一番高く積んであった本が倒れたのだ。そして、その中に一人の男の子が座っていた。私と同じくらいの年のようだったが、体は小さかった。その子のふさふさとした黒髪は男の子にしては長かった。ジーンズにTシャツを着ていて、目を開けていたが、一目で私のことが見えていないのだとわかった。ひざの上に驚くような機械がのっていた、それは新型携帯電話の平均サイズくらいの大きさで、金色の金属製で、長方形の短い両側にボタンかキーが3つずつついていた。その3つと少し間が空いたところに、両側と真ん中にも少し長いボタンがついていた。
「ご、ごめんなさい」と彼はどもって言った。「そんなつもりは、あの、、」と口ごもって言った。
「えぇとね、聞いて」私は自分の驚きを抑えるように言った。「あなたのお名前は? どうやってここに入ったの? あなたの家族はどこ? ここで何をやっているの? そしてそれは何をするものなの?」思わずその変わった機械を指さしていた。
「これ?」彼はそれを愛おしそうに指で触った。
「そうよ」
「これはものを書くためのものだよ。点字を書く道具を見たことない?」
「あるわ。でもそういうのは初めてよ」
「これは人生の救いになるよ」
「それで、あなたのお名前は?」
「名前?なんだと思う?」
「えっ?」
「僕の名前を当ててみて」
「そんな、名前って何百万もあるじゃない!」
彼は不思議な笑みを浮かべて言った。
「いいから当ててみて」
私は一瞬考えた。そして、ぱっとひらめいた。
「ルイ、あなたはルイよ」
「正解」と彼は言った。
「どうしてわかったんだろう?」
「それはね」彼は答えた。「ルイ・ブライユを知っているよね。だからブライユ(点字)からルイという名前を連想したのさ。点字器を持った目の見えない子が君の家に来たから、自動的に名前はルイだと思ったのさ」
本当の理由はそれだけではなかったが、まずは他の質問に答えてほしかったので、私は再びこう聞いた。
「どうやってここに入ったの?」
「それは秘密」と彼は言った。
「それはダメよ。だって、ドアはすべて鍵がかかっているわ。物理的に不可能なんだから」
「不可能なことなんて何もないさ」と言って、彼はにやっと笑った。
「わかった。それなら、質問を少しかえるわね。
いったい、なぜここに入ったの?つまり、何のためにこの家に来たの?」
「前からここには来ていたよ、しばらく前からね」と言って、彼はまた微笑んだ。
「でも、どうして? そして、どうやって?」
「どうしてかって?それは、ここなら発明をするのに安心だからさ。外の道端ではできないし。場所を探して通りかかったら、この家は居心地が良さそうだったから選んだのさ。どうやって入ったか?それは、僕なりのやり方があるんだ」
「発明をしているって言ったわね?」
「これだよ」彼は自分の機械を持ち上げて言った。
「それはあなたの発明じゃないでしょ」
「僕が発明したのさ」彼は言った。「夜中に聞こえていた音は、これを作ってい  
た音だったんだよ」
「そのための道具はどこに?」と私は試しに聞いてみた。彼は自分の手を広げた。
「この手が道具さ。でも、もう終わった。僕はもう行くから、君は静かに眠れるよ」と言って、彼は立ち上がった。
「待って!」私はどうして次の言葉を言ったのか、今でもよくわからない。
「これからもずっとよろしくね」
「あぁ、大丈夫さ。じゃあまたね」最後にもう一度、彼はにっこり笑った。そして、彼はドアを通り抜けて出ていった。
私は彼がどうやって出られたのか知りたくて、できるだけ音を立てずに後を追った。でも、彼は気づいて振り返ってこうささやいた。
「君はもう寝なくちゃ。ベッドに戻って、シーリア」
私はその通りに、自分の部屋に戻り、ベッドに入ってこう思った。いったいどうして彼は私の名前を知っていたのだろう? 私は自分で言ったのだろうか? いいえ、言ってない。そして、私は彼のことを知っていた。彼は自分のことをありのままに明かしていたが、その時には気づいていなかったのだ!
そうよ、ルイ。私は、自分と同じくらいの年齢の少年、歴史上最も偉大な人物の一人、ルイ・ブライユと話していたのよね。