海外の部 WBU-NAC地域 ジュニア・グループ 優秀賞
暗闇からの輝き
アメリカ  クリステン・スティール(20歳・女性)  
 二人の姉妹が、お気に入りの本を片手にベッド脇に座り、開いた窓からの雨音を聞いています。すると、雷の音がだんだん大きくなり、稲光が近づいてきます。部屋の電気が点滅し、そして停電して全くの暗闇になってしまいます。妹は本を横に置いてベッドにもぐりこみます。懐中電灯を探すこともなく、姉は読書を続けます。何の明かりもなく、どうやって読書に集中できるのか、と不思議に思われるかもしれませんが、これが、指で点字を読む者にとっての強みのひとつなのです。
 私の個人的経験では、点字での筆記スピードは晴眼者の手書きより(少なくとも2倍は)早いです。その理由は、大半の点字読者が一般的に使う短縮表記にあります。私は、私的なメモ、やることリスト、カレンダーへの書き込みなど個人的なことを記すには、速記の旧型の「Grade 3点字」を使っています。187の短縮形に加え、約600もの省略コードのおかげで、時間とスペースを節約できます。私のマッサージ師の仕事においても、患者さんに関するメモを手早く記すのに、Grade 3は重宝しています。専門学校のころに、私より年上の生徒や親たちからも、私の点字筆記の早さから、ノートを貸して、とよく頼まれました。高校時代は同級生達からは、筆記録に近い音声メモやテストレビューをうらやましがられたものです。点字筆記は手書きより圧倒的に勝ることから、口述筆記という副業は視覚障害者に向いていると思うことがよくあります。
 音読も同様です。数か月前、私はCEUのコンフォートタッチという高齢者や特殊医療ケアが必要な方向けの指圧養成のコースを受講しました。コースが始まる前に、必要な教科書をBookshareに依頼しました。コースの先生は、教科書が点字になることに感動されていました。私は教科書の確認のため、その一部をBrailleNoteで読み上げました。それを聞いた先生は、「あなたが読んでいるところをビデオに撮っても構わない?」と興奮して言いました。私は即座に、どうぞ、と答えました。というのは、目が見えないことに関連した実演をよく頼まれるようになっていたからです。ですが、何のためのビデオ撮りなのか聞いてみました。私は、「点字読者の大半が、このような機器を使っています」と説明し、「今やこれが当たり前です」と言いました。先生は、どう返答しようか少し考えてから、「あなたの音読は他の人とまったく違いがないですね」と言いました。目が見えなくても、読み書きは容易にできるようになります。練習を積めば、印刷されたものを読む晴眼者と同等又はそれ以上に雄弁、かつ流暢に読むことができるのです。
 点字を使うことは、より細部にまで注意を向け、さらに、触覚の感覚が高まることで、記憶の保持を高めることができます。このことは、点字ユーザーなら自身の経験からわかっていますが、ジョンホプキンズ大学、脳心理科学のMarina Bedny助教授は、この事実に関する研究を行い、2017年のNFB 全国大会で発表されました。私も、どの角度からでも文章に触れておけば、そのスペリングや内容を長い間記憶しておくことができます。Braille Challengeという全国的な競技会では、この能力を、読解、校閲、スピードと正確さで競うものです。Bookshareも、好きなタイトルの感想を競うエッセイコンテストを開催してきました。触覚で学術的な成功が可能なだけでなく、ツボを特定し組織の癒着をほぐすことが鍵となるマッサージ師という職業の私にも、これはおまけのボーナス能力です。
 パスワードや暗号化が付いたiPhoneがなかったころは、プライベートなことを記すには鍵付きのノートなどが使われていました。視覚障害者もプライバシーを守りたい気持ちは同じですが、点字のおかげで、晴眼者の家族と暮らす家では暗号化などは必要ありません。検索カードのランダムなパスワードや注意書きをたくさん付けた検索カードを出したままにしたり、BrailleNoteのメールやQuickNoteのファイルを開いたままで留守にしてもほとんど気になりません。視覚障害者の友達からもらったバースデーカードや手紙は、特別な宝物です。「秘密の文字」だからということ以上に、見えなくても大人としての自信が得られるからです。
 点字は外国語か、ほとんど目にすることのない特別なものと思われているかもしれません。もちろん、通常の印刷物が世の中の標準であり主流です。晴眼者は、移動中、職場などいつでも印刷したものを見ることができます。でも、スキルと創造力があれば、点字でも同じことが可能です。今では、「統一英語点字」のおかげで、ほぼすべての種類の文字が表記できるようになっています。印刷物の種類を問わず、eBrailleをダウンロードしたり、スキャナーアプリや、ブルートゥースとつながって点字表示が容易にできるようになってきています。ですので、点字でより早く、スペースをとらず、頻繁に、プライバシーも確保して楽しむことができるのです。指先に点字されあれば、決して暗闇に取り残されることはありません!