海外の部 WBU-NAC地域 最優秀オーツキ賞
私と点字 ―あの頃と今
アメリカ     ジェシー・メイブリ(33歳・女性)
 先日、学生時代に自分が書いたものを整理していたときに面白いものを見つけました。大学入試で書いた小論文です。テーマは「あなたが最も重要だと思う発明は何か。また、そう思う理由を述べよ」です。
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 1829年、あるフランスの青年が自分の発明に関する本を発表しました。それは、視覚障害者がそれまでは想像することしかできなかった高みへと登っていくのを助けてくれるようなすばらしい本でした。それによって、読み書きは不可能なことではなくなり、文字通り、手で触れることができる現実のものになったのです。ルイ・ブライユが15歳で考案した、彼の名前がついた筆記システムのおかげで、何百万人もの視覚障害者がその能力を発揮し、目標を達成することができました。私もその一人です。
 私の心をかすめる思い出たち。好奇心にあふれた5歳の内気な少女は、先生から教わって、あっという間に点字を覚えてしまいました。もともと文学や言葉が大好きだったので、やがて本棚にはぎっしりと小説が並ぶようになり、会話の中にもときどき小説が登場しました。8歳になる頃には、夜でも明かりが必要ないので、毎晩こっそりと別世界への旅を楽しんでいました。録音図書がおもしろくてむさぼるように聴きましたが、少女はそれよりも、自分の前にある文字を学ぶ方が好きでした。それは、カセットテープにはない良さでした。
 当時、まだ授業で子供達が字の書き方を習っている頃、その少女は、その年代の子供にしては信じられないくらい長い話を話すことができました。毎晩毎晩点字タイプライターから離れず、中学生のときも、目の前にある言葉の感触と響きがぴったり一致するまで、あれこれ試していました。高校2年生のとき、念願がかなって点字ディスプレイ付きノートテイカー(電子手帳)を手に入れました。それは、それまで持っていた音声ベースの機器の改良型で、読み書きがとても楽になりました。
 やがて私も大人になり、その少女のことは遠い昔のことになってしまいましたが、点字は今でも私には欠かせないものです。今はほとんどの時間を点字の教科書や課題を読むのに費やしているので、読書の時間は今の私には贅沢な時間です。そして、私が今書くのは物語や詩ではなく説明文です。また、むずかしい数学の問題を解いたり、フランス語でコミュニケーションしたりするのにも点字が役立っています。さらに、私の大好きな音楽でも、単に耳で聞くだけでなく、フルートや歌の点字楽譜を読むことができるので深く勉強できます。はるか遠い昔、私を含めて後世の人々の人生にどれほどの影響を与えることになるかなど思いもしないで点字を考案したフランスの少年に、私はいつも感謝の気持ちを持ち続けることでしょう。
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 あれから15年。当時の頃を懐かしく振り返ってみましたが、そのときの思いは今も私の中にあります。起きている時間の大半を、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)を聞いて過ごしている今でも同じです。点字の重要さは変わりません。今はもっといろいろな使い方をしています。
 たとえば、結婚生活も家庭生活も点字のおかげで豊かなものになっています。金曜日の朝はいつも、iPhoneで夫にさっとメールを書いて送ります。夕方帰宅すると、点字付きの計量カップとスプーンを使って週末用にお気に入りの料理を作ります。そのあとは、夫と一緒に本を読んだりします。点字ノートテイカーで音声を点字にして読むこともあります。音声で聞く本でも、こうして読むともっと本の中に入り込めそうな感じがするからです。
 旅行するときも点字を活用しています。旅行の前に搭乗券を印刷して点字のポストイットを貼っておくと、どれがどの搭乗券かがわかります。搭乗するときに正しい搭乗券を取り出せたら、きっと私は何でも問題なくできるように見えますよね。
 最後に、私が点字を一番使うのは仕事の場面で、ほとんど間接的に使っています。視覚障害児担当の教員の技術アシスタントとして、子供達に点字ノートテイカーや点字打刻機の使い方を教えています。また、学校が保護者と教員向けに企画する研修で、私の個人的な経験とスキルを生かして、活字が使えないときに点字を読めることがいかに大切かを話しています。また、思いがけないときに点字がでてくることもあります。今日、点字が読めない晴眼者の同僚が私のところに来て、彼女が点字で作成した書類を発送前にもう一度私に確認してくれないかと頼んできました。
 人生は、その大部分が変化していきます。私はあの少女だった頃から大きく変わりました。新しい友達や家族ができ、興味が広がり、外へ外へと出て行きました。人生の大切な節目も経験しました。今は、私の人生において変わらないもの、私がずっと頼りにしてきたものとして思い出せるようなものはあまり多くはありませんが、点字は間違いなくその一つです。点字の使い方はそのときどきで変わりましたが、点字をまったく使わなかったことはありません。今から15年後、過去の思い出の品々の中にこの作文を見つけ、30代、40代の私に点字が果たした役割をこうしてしみじみと振り返る日がくるのを楽しみにしています。