国内の部 学生の部 優秀賞
「ありがとうラジオ」
兵庫県立視覚特別支援学校高等部3年    松村 一輝(17歳)

  私は生まれつき目が見えず、全盲と呼ばれていますが、目が見えないなりに 毎日楽しく過ごしています。家族は優しく、友達にも恵まれ、部活動に打ち込む普通の高校生です。それでも、目が見えないことを恨む時が何度もあります。  そんな時、やりきれない気持ちをぶつけたり、包んでくれたりする存在が私にはあります。それは「ラジオ」です。
  私は、保育園に通っていた頃からいつもラジオを聞いていました。小さい頃の私にとって、ラジオは、ただ楽しいもの、暇を潰してくれるものでした。そんなラジオとの付き合い方が変わったのは中学生の時です。初めてラジオにメッセージを送ったのは中学2年の夏でした。いくらラジオが好きだとはいえ、知らない人にメッセージを送るなんてと、さんざん迷ってやっと送信した内容は、自己紹介と、学校であった何でもない出来事でした。私のラジオネームが聞こえた瞬間、耳を疑いました。自分が送ったメッセージが読み上げられ、しかも、それをきっかけに話題が広がり、盛り上がっているのです。飛び跳ねたいほどうれしく、くすぐったく照れくさい気持ちになりました。それからもメッセージが読まれるたびに、顔も名前も性格も知らない人との間に生まれる「不思議なつながり」を感じました。つながりと呼んでいいのか分からないほど、あいまいな、しかし、ほんのりと温かく優しい、「人」と「人」のつながりです。
  しかし、目が見えないことから生じる悩みまでは送れませんでした。ラジオにつらいことは持ち込みたくないと思ったこともありますが、一番の理由は、自分の障害をあえて告白するのが怖かったからです。異質なものと見られたり、差別的な目で見られたりするような気がしていました。「障害者」として見られることが大嫌いだった私にとって、それは何よりも恐ろしいことでした。それでも、ふとやってくる漠然とした不安が重くて、目が見えないことへのいらだちや悔しさをメッセージに書いて送ることにしました。思い切って携帯番号も書いて、迷いに迷って、締め切り1分前に送信ボタンを押しました。
  番組当日。その日はクリスマス・イブでした。始まる2時間ほど前、スタッフの方から電話がかかってきました。障害についての幾つかの質問のあと、電話は切れました。番組が始まるまでの間、緊張と後悔に襲われました。友達や先生にもしたことのない相談を、何でラジオにしてしまったんだろう。電波にのるということは、知らない人たちが聞くということなのに。ぼくは何を求めて相談しているんだろう。「たいへんだとは思うけどがんばって」とか、返ってくる答えは想像つくのに。
  番組がスタートしてからしばらく経って、再び電話がかかってきました。真冬だというのに、全身から汗が流れだし、身体中が熱くなっているにもかかわらず、ブルブルと震えがきています。
  「ではここで、10代のリスナーさんと電話がつながっています。もしもし、 ラジオネームを教えてください」。いつもの大好きな声に、少し緊張がゆるんで話し始めることができました。自分で応募したし、他の10代の人も悩みを相談している中からこうして選んでもらえたのだから、と自分に言い聞かせ、 口を開きました。「もしもし、すーぱーさるまつです」。できるだけ明るい声を意識すると、思ったより軽く言葉が出てきました。家のこと、学校のこと、自分の障害のこと。言葉につまりながらも何とか話しきったあと、パーソナリティの人が言ったのです。
  「僕は、僕コウズマユウタはね、目が見えるんです。でもだからこそ、さるまつ君に見えないものをラジオで伝えていきたいなっていうのを今すごい思うし、さるまつ君は目が見えてないけどさ、みんなが見えてないことが確実に見えてるはずだからさ。僕は君が見えてないことを言葉で届けていきたいし、その代わりさるまつ君もいろいろおれに教えて? お互い教えれることがたぶんあるからさ。これは一方通行じゃなくて、おれにも足りないこといっぱいあんのよ。だめなとこいっぱいあんの」。電話越しからでも相手がだんだん鼻声になっていくのを感じて、「ああ、今の言葉は本当なんだ」と、素直に信じることができました。「お互い見えないところがあるから、いろいろ教えて」。想像とはまったく違う言葉が、心に深く広がっていきました。リスナーさんからもたくさんメールが届いて、差別的な目で見られなかったんだととても安心しました。
  スイッチを入れるたびに元気と癒やしをくれるラジオ。人とつながることの楽しさとすばらしさを教えてくれたラジオ。障害を持っていても安心できる居場所となったラジオと、これからずっといっしょに生きていきます。障害を持っていてよかったのかもしれません。気づけなかったことに、気づけたのだから。ありがとう、ラジオ。これからもよろしく。