国内の部 成人の部 優秀賞
「私の世界を広げてくれた点字」
筑波大学付属視覚特別支援学校 専攻科鍼灸手技療法科2年 ボロット・クズ・シリン(26歳)

 私にとって、点字は命のようなものです。もし点字がなかったら、今の私はなかったかもしれません。勉強もできず、日本にも来られず、将来の夢を持つこともないまま、キルギスの田舎で静かに生活していたでしょう。
 私は生まれつき網膜色素変性症で、小学校から中学校まではキルギスの田舎の学校で勉強しました。両親は私を盲学校に入れることも考えましたが、盲学校がある首都のビシケクまでは遠いのと、盲学校に入ると「障害者」という偏見の目で見られてしまうのではないかと心配して、一般の学校に入れました。勉強はいつも家族や友達に教科書を読んでもらって、丸暗記していました。中学生になると勉強も難しくなりましたが、卒業したらみんなと同じように進学して、勉強を続けたいと考えていました。でも、周りの人には「あなたは読み書きができないから、勉強を続けるのは難しい」と言われました。もう勉強できないと思った時、私の将来は真っ暗になりました。一番つらかったのは、先生がクラスで「将来何になりたい?」と質問した時、みんなはいろいろな夢を持っているのに、私だけ何も答えられなかったことです。将来、ずっと家の中で静かに生活するしかないと思うと、夢や希望など持つことができませんでした。そして、晴眼者の世界の中で生きていくのは難しいとさえ思うようになりました。私は両親に「私を障害者の世界に入れてください」と盲学校に進学することを頼みました。
 盲学校に進学して、最初にキルギス語の点字を勉強しました。自分で読み書きができるのがうれしくて、うれしくて、夢中になって3日間で全部覚えました。それまではいつも家族や友達の時間に合わせて、読んでもらわなければなりませんでしたが、一人でいつでもどこでも読めるようになったのです。勉強だけではありません。点字は私の生活も変えました。点字を読んで料理をしたり、服の色を点字でメモしてポケットに入れ、自分で服を選んだり、それまでは一人では無理だと思っていたことが、自分でできるようになりました。点字を学んだことで、私の生活はとても豊かになったように思います。
 盲学校の2年生の時、ビシケクの医療大学の中に、視覚障害者が学べるマッサージのコースがあると聞きました。私は子どもの時から目の治療として、ずっとマッサージを受けていました。治療でもなんでも、私はいつも人にしてもらうことが多かったですが、マッサージを勉強すれば、自分が人にしてあげることができます。私はすぐにマッサージの勉強をすることを決心しました。
 しかし入学してみると、思っていたような勉強ができませんでした。キルギスにはマッサージの点字の教科書がなく、全部自分でノートをとらなければなりませんでした。普通、教科書は勉強の内容が体系的に書かれていますが、自分で点字のノートを作ってもなかなか教科書のようにまとめて書くことができず、せっかく勉強しても表面的なことしか学べていないような気がしました。そんな時、日本で勉強できるチャンスがあることを知りました。日本はあんま・マッサージ、鍼、灸が進んでいることは知っていましたから、日本に行けば、教科書を使ってもっと深く勉強できるのではないかと思いました。そう考えたら、どうしても日本で勉強したいという気持ちが強くなって、私はすぐにビシケクの日本センターに行って、日本語の先生を探しました。1年間、一生懸命日本語を勉強して、日本留学のチャンスを得ました。
 私は今、筑波大学付属盲学校鍼灸手技療法科で勉強しています。点字の教科書があっても、難しい言葉ばかりで勉強は本当に大変ですが、国家試験の合格を目指して頑張っています。将来はキルギスで自分の治療院を開き、日本とキルギスを行ったり来たりしながら、日本のマッサージの技術をキルギスに広めたいです。
 点字は勉強だけではなく、日本で生活するのに非常に役に立っています。生活の中でわからない言葉があれば、点字でメモします。最近、日本語の歌を点字でメモするのがとても楽しみです。それから、日本料理のレシピを点字で読むことも大好きです。歌や食べ物の話は日本人と話す時、いろいろな話題を提供してくれます。歌や料理がきっかけで、親しくなった日本人の友だちも大勢います。私の人間関係が広がったのも、点字のおかげだと思っています。
点字は神様が私に与えてくれたプレゼントです。私は中学生の時、もう晴眼者の世界では生きていけないと思いましたが、点字が私と晴眼者の世界をつなげてくれました。点字を読む指が私の目になり、たくさんの情報を与えてくれます。情報があれば、行動できます。行動すれば、自信につながります。点字のおかげで自分の夢を持ち、最初の一歩を踏み出すことができました。これからも点字を使って、もっと勉強して、夢を実現していきたいです。