海外の部 EBU地域 シニア・グループ 佳作
六つの点でこんなにたくさんのことができるなんて!
スペイン  フランシスコ・ハビエル・ガルシア・パハレス(26歳・男性)
  両手は素早く動き、人差し指はなめらかに滑り、六つの点で物語は語られる……

2005年8月6日
気分が悪い。くそっ、なんてひどい気分なんだ。この一年間、僕は人を信じようとしてきた。問題は、みんなが言うことを僕がまったく聞いていないことだけだと思いたかった。でも、人生が伝えてくれる言葉を、これ以上聞かないでいるなんてできないよ。いや、ちょっと待てよ。逆だ。耳が聞こえなくなってしまうのだから、聞きたくても、もうその言葉は聞こえないということを受け入れなくてはいけないんだ。

2006年1月24日
どうすればいいのか全くわからない。家族は僕のことを理解してくれないし、家族にわざわざ僕の地獄のような苦しみを話す気にもならない。どうしてやることなすことこんなにきついのだろう。今日もまたとんでもなく不愉快な一日で、そんな日が日増しに多くなっている。一人のとんでもない奴が、教室でこんなメモを回したんだ。「立ち上がってゴミ箱に何か投捨ててから、席に座るときに耳の聴こえない奴を叩こう」。そうしてみんなが僕のことを叩いたので、先生に文句を言ったけど、その先生にまでからかわれてしまった。みんなに叩かれるたびに泣きそうになったけど、なんとか我慢した。でも今は打ちのめされた気分だ。もうこれ以上無理だよ。残念だけど。

 両手は震え、二本の人差し指はうろたえる。勝ちぬくための選択。そして物語は続く……
 
2007年2月7日
信じられない!最低最悪だ。どうして何もかも僕にばかり降りかかってくるのだろう。授業中に勉強しなくても試験に合格する方法をやっと見つけたのに。デイビッドにまた会えたし、なんとかデイビッドのグループに入れてもらおうと頑張ったのに……。それでもまだ足りないというのだろうか。耳が聞こえないのに、そのうえ目までも見えなくなるなんて。なぜ?どうして?字が見えなかったから哲学の試験問題も読めなかったのかもしれない。今、家に着いたけど、そんな疑問がわいてきた。

2007年4月25日
僕は学校を辞めた。法律では、まだ学校を辞める年齢じゃないことはわかっているけど、授業に出ても一言もわからないし、本も読めない。ただからかわれるだけ…… 他に道がある?辞めれば少なくとも誰にも悩まされなくてすむはずだ。

2007年7月8日
もう真夜中だ。デイビッドたちと一緒にいて、今家に帰ってきたところだ。ちょっと落ち込んでいる。どうやってコミュニケーションすればいいのかわからないから。みんなが言っていることがさっぱりわからない。最後にはデイビッドが、みんなが言っていたことを簡単に教えてくれるけど、やっぱりわからない。ちょっと違うんだ。

2008年7月15
家に帰って本を読むのが楽しみだ。数ヶ月前に決めたんだ。その日、母さんにこう言った。「挑戦してみるよ」。母さんのため、父さんのため、そして何よりも心理カウンセラーのホセ・アントニオ先生のために。点字を勉強した。それから毎日毎日読み続けたんだ。おかげでどの本の文字も、今では僕の最高の友達。文字とのコミュニケーションには何の問題もないし、隠し事もない。僕が必要なだけ十分に時間をくれるし、本の中の物語は僕が遠くに追いやろうとしていた灰色の世界に、色をもたらしてくれるんだ。

2008年10月13
試験で9.5がとれた!マンマミーア!なんて嬉しい日なんだ。たまらなく嬉しくて、全てがうまくいっている。通訳機を教室に持って行ったら、友達が新しいコミュニケーションシステムの使い方を覚えてくれた。初めて点字で受けた試験で、パーキンズ点字タイプライターを使ってすごくいい点数が取れたんだ。先生は大学教員になれるよと言ってくれたけど、差し当たって僕は大学へ進学することにした。

2013年4月26
バスで乗りあわせた男性に僕は目も見えないし耳も聞こえないと伝えると、彼はあっけにとられたようだったけど、僕の右の手のひらに彼が人差し指で文字を書いて会話することができた。携帯電話につながっている点字ディスプレイだよと伝えた時の彼はもっとおもしろかった。今、ちょうどそれを使ってメッセージを送ったところで、今度は新聞を読んでいると伝えると、彼は興味津々だった。なんて素晴らしいんだ!

2014年3月4
ええと、そうだ、親愛なる行政法の先生へ。先生が下品な言葉を使った時、ロレナがコンピュータにその言葉を書いたので、僕も点字ディスプレイで読みました。まるで僕が直接聞いたみたいに感じました。イーサとパトリと僕は大笑いしたのですが、先生が何か途中まで説明した時に、はっと自分が言ったことに気づいたようで、説明を止めて、こう言ったのですよね。「ハビが読むから“あばずれ女”と書かないこと」って。

2015年11月25
親愛なる日記へ。これまでに「不可能」という言葉を使っていたとしたら、どうか僕を許してください。僕が視聴覚障害者であれ何であれ、英語の勉強はやめません。アレックスが単語の発音をひとつひとつコンピュータに入力してくれたので、点字ディスプレイを使ってそれを読んで何度も繰り返しました。こうしてたくさんの言葉を覚えたのです。意志あるところに道は開けると言いますが、アレックスが道を提供してくれて、僕は意志を提供しました。

2017年3月3
昨日、僕は言葉にできないくらい美しい表情をした女の子とひとときを過ごした。僕が点字ディスプレイを読んでいるときに、彼女が自分の手を僕の手の上に置き、微笑んでくれた。その時ふと思いついて、ポケットから点字のキーリングを取り出して、彼女が何か言う前に点字を教え出したんだ。彼女は覚えが早くて、あっという間に覚えてしまった。点字がもっと難しければ、もう少しだけ六つの点の上で彼女の手をとって教えることができたのに。点字がもっと難しければ、目を閉じて、唇に微笑みを浮かべながら静かに集中している彼女を、もう少しだけ見つめることができたのに。

 この物語を書いた両手、今はその物語を読む両手、そして探し続けていたものをみつけた両手

「友情、教育、コミュニケーション、包容、ユーモア、愛……六つの点でこんなにたくさんのことができるなんて!」