海外の部 WBU-NAC地域 最優秀オーツキ賞
点字が微笑む
アメリカ     ラリー・ジョンソン(83歳・男性)

 私は75年以上点字を使っており、私的にも仕事でも点字に頼っています。

 目の見える子供たちが読み書きを習うように、私は1年生で点字による読み書きを習い始めました。エレベーター、現金自動預け払い機、ホテルの部屋、レストランのメニュー、トイレ、航空会社の機内インフォメーション、名刺、グリーティングカード、清涼飲料の自動販売機、博物館の表示、空港、公園、歴史的建造物、連邦政府ビルなど、点字が日常に溢れている現在を歓迎しています。

 点字を使っていると、ちょっとした笑いをもたらしてくれることがよくあります。最近の出張でカンザスシティのヒルトンホテルにチェックインした時のことです。私の部屋の部屋番号を表す点字の数字が逆さまに貼ってあったので、私はベル係をからかいました。そしてその日の夜のことです。私はホテルに戻り、エレベーターで自分の部屋のある階に上がりましたが、とっさに部屋番号を忘れてしまったのです。恥ずかしい気持ちで、私は部屋番号を読みながら、同時に思い出そうとしながら、廊下に沿って歩き出しました。すると突然、逆さまの点字の数字が指に触れたのです。やった!ホテルの誤りが、私の救いとなったのです。

 点字を読むことが時おり大変な困難になり得ることも、ためらいなく認めます。私はイリノイ州エバンストンというシカゴ近郊の町にあるノースウェスタン大学を出ました。シカゴの冬はかなり厳しいこともあるのですが、バスに乗ること30分、1ブロック半歩いて高架線列車に乗り、そして一度電車を乗り換えて、そのあとキャンパスまで6ブロック歩いて、毎日通いました。暖かい時期には盲導犬のタシャにも私にも、大して難しい道のりではありませんでしたが、1月の半ばには、時速20マイル (36 キロ)の風が湖から吹き、気温が華氏0度前後(摂氏マイナス約18度)になるので、感覚が無くなるほど厳しい寒さになることもありました。

 ある日8時からのラジオアナウンスの授業に到着した時のことをよく憶えています。私は指が氷のように冷たくて、点字を指先で感じることができませんでした。そこで教授に、宿題として課せられたコマーシャルを読む順番を最後にしてもらえないかとお願いしました。すると教授の意地悪な返答に生徒たちの中からどっと笑いが起こりました。「今までにありとあらゆる言い訳を聞いたと思っていたけれど...じゃ、君には凍った(Frozen)ということでFをあげよう。」

 そしてそれとは対極的なこともありました。現在はテキサス州に住んでいるのですが、何年か前の良く晴れた8月の午後にサンアントニオ植物園を訪れた時のことです。植物の名前や説明を点字で表した銅板がボランティアの人たちによって設置されてありました。私のような視覚障害者に情報を伝えようとしてくれる気持ちは本当に有難かったのですが...でもひと言言わせて下さい。強烈な熱帯のテキサスの太陽に何時間もさらされて熱くなった銅板に指を走らせて点字を読むには、かなりの熱意がいるのです。

 点字の便利なことの一つとして、プレゼンテーションの時、聴衆をしっかり見たままで読めるということがあります。でも目の見える人の中にはこれに困惑する人もいるようです。最近あるシニアグループの就任式でちょっとしたスピーチをした時のことですが、ある婦人が私の友人にこんなことを言いました。「彼、すごく緊張しているみたいね。ずっと紙をごそごそ触っているわ。」友人は少しイライラしてこう答えました。「バカなこと言わないで下さい。彼は紙をごそごそ触ってるんじゃないですよ。点字を読んでいるんですよ。」

 大学院レベルの経済学のコースを取っていた時にはこんなこともありました。その教授はそれまで点字や点字盤と点筆を見たことがなかったようでした。彼女は黒板に向かって、板書をしながら話し始めました。そして私はノートを取り始めました。すると彼女が止まって振り返ったので、私も書くのをやめました。一瞬の沈黙の後、教授は再び板書を始め、話し出したので、私も再びノートを取り始めました。すると彼女はまた手を止め、振り返りました。私もまた手を止めました。再度教授は板書と講義を始め、私もまたノートを取り始めました。すると今度は文の途中で言葉を止めて振り返り、自分が話をしている時に一体誰がカチカチと音を立てているのか、と生徒たちに尋ねました。みんなが私の方を見たので、私は点字盤を持ち上げて、「私です。点字でノートを取っているのです。」と言いました。彼女は恥ずかしかったでしょう。しかし同時に学んだのです。

 ある高級な靴屋で靴を買おうとしていた時のことです。私はちょっと茶目っ気をだしてしましました。店員が運転免許証の提示を求めたので、私は点字の入った3インチ×5インチのカードをポケットから取り出して、渡しました。彼は何度かひっくり返してカードを見、言い出しにくそうに口ごもりながら「私には読めません。」と言いました。私は「点字で書かれているからですよ。私たちにはこういう形で運転免許証が発行されるんです。」と答えました。店員はどうしていいのかわからず、困惑していました。少し間をおいて、私はニヤニヤしながら冗談ですよと言い、普通のテキサス州の身分証明書を渡しました。

 人によっては、点字は「知識への困難な道」なのかもしれません。しかし私には人との関わりを持つための素晴らしい手段なのです。