国内の部 サポートの部 優秀賞
「くりの実になりたい」
福島県二本松市立二本松南小学校6年 渡邊 綾乃(わたなべ あやの) (12歳・女性)
 その日とても天気の良い朝でした。土曜日で、昨日の夜更かしのせいでねむくなるようなのどかな暖かさの中、ある親子が出かける用意をしていました。図書館へ行くのです。「くりの木図書館」という小さな図書館で、歩いてすぐのところにあります。親子は、父とむすめで、父親は目に障害があります。ですが、図書館へは歩いて行くことにしています。むすめの方は前回借りた本を持って、父親はバッグに折りたたんだ白杖(はくじょう)を入れて。もちろん手引きはむすめです。しばらく歩いて図書館に着くと、むすめは本を返し、これから読む本をとると、二階の読書や勉強をするスペースの席に父親と仲良く来ました。父親の方はむすめが本を返すのを待っている間に本をとっていました。むすめは本を読み始めましたが、父親は目が悪いので本を読めません。ですが、不思議なことに父親はなんのとまどいもなく表紙を開きました。すると本の中から小さなくりの木が生えてきて、大きな実を実らせました。その実からはやわらかな光がはなたれていて、とてもおいしそうなふんいきをただよわせていました。父親はそれをぱくっと口に入れて目を閉じました。父親の頭の中では文字が浮かんでいました。そのくりは食べると頭の中で文字がほどけます。頭の中に「昔むかし…」「ぼくは…」「あいつが…」と浮かんでは消えます。しかし、くりには容量があります。それはさまざまですが、あっちの本では一つ二百ページ、こっちの本では一つ五十ページという具合でした。そんな訳で、くりを食べ続けている父親はおなかいっぱいになってきました。そのせいか読み進めるスピードも落ちてきました。それに追い打ちをかけるように閉館のチャイムが鳴ってしまいました。ですが、父親は今ちょうど山場。むすめはもう借りていく本の手続きも終わっているのに、いいところなのです。しかも、あと五ページほど。仕方ないのでむすめは残りのくりをぱくっと食べ、急いで父親と図書館を出ました。
 帰り道、父親の頭には物語が浮かんできません。おかしいなぁと思っていると、突然むすめが「いいお話しだね!お父さん。」と、感動のまなざしをむけてくるではありませんか。父親はおどろきのあまり「へぇん?」とすっとんきょうな声を出してしまいました。そのとたん、笑い出したくなってきました。どうやら二人とも気付いたようです。結局、帰り道でその本のすてきな結末を話しながら、長い影をひいて家路をたどりました。
 これが父と私の物語。

 この話は父が夢で見たものです。これが普段の日常でありえないというわけではありません。そう、くりが本を読み上げてくれる機械になっただけなのです。この物語は父が目が悪いからこそ生まれた話なのですが、私はふつうになりたいと思ったことがたくさんあります。たとえば、友達はみんなお父さんと手をつないでいないのに、私だけが父と手をつないで突っ立っている。運動会の親子競技で、父と出られない。でもそんな時は、プラス思考で思い直します。目が悪いからはずかしがらずに手をつなげるんだ。父が出られないからこそ母と運動会に出て、身長の差がわずか五センチメートルだったことが有利になって二位をとれたんだと。するとだんだん、きっと私達親子は他の家族よりもずーっと仲がいい!と思えてきます。お互いを支え合い助け合うことで、私達親子は「きずな」強くなっていると思います。私は助けられていることがほとんどですが、これからもっともっと父も母も助けていきたいです。
 実は、父以外にも親せきに障害者が数人います。そのため私は日常に障害者がいるのになれています。ですから、盲学校に行ったときも、その場所にまったく違和感を感じません。それを生かして、大きくなったらボランティアをやってみようと思っています。少なくとも、最近テレビで見たような「障害者だから入店はダメ!」ということはなくしたいです。私は障害のある人を少しでも助けられるよう、物語の「くりの実」のような存在になりたいです。みんなが障害のある人を助ける世の中になって、世界中がずっと優しくなるといいなぁと思います。