国内の部 学生の部 優秀賞
 「音楽がくれたもの」 
 栃木県立盲学校 高等部普通科1年 八染 まどか(やそめ まどか)(16歳・女性)
 「私は目が悪いから人に迷惑をかけてしまう。だから、人と関わらないようにしよう。」
 小さい頃からそう思っていた私は、いつの間にか人と話すのが苦手になっていた。
 保育園の時は、「まぁちゃんはよくぶつかるのに、先生は注意しない。」「目が悪いからって、何もやらなくてずるい。」といわれ、小学校では目が悪いからと仲間はずれにされた。
 中学に入学する頃には心を固く閉ざしていた。同じクラスになった人に話しかけることもできず、友達をつくりたくてもつくれない。友達がどんなものか、どうやったらできるのかも分からず、一人不安の中にいた。 
 そんな私にも、楽しみ安らぐ方法が一つだけあった。それは音楽だ。小さい頃から歌や楽器が大好きだった。私はいつでも歌っていた。八歳から篠笛も習っていた。歌ったり笛を吹いたりしている間はつらいことを忘れ夢中になることができた。目が悪いこと、周囲から避けられていること、自分ひとりで何も満足にできないこと。そんなことを気にせず思いきり楽しむ時間を音楽は与えてくれた。  閉ざしきった私の心に唯一入ることのできた音楽。小学校時代、家族以外に私の心の世界に入ってくる人はいなかった。それが、中学校三年間の短い期間で大きく変わった。
 中学校で私は吹奏楽部に入部した。人がたくさんいるのは苦手だったが、私は大好きな音楽を一人でやるのが寂しいと少し感じていた。だから、吹奏楽部に入部すれば大勢の人と音楽ができるという小さな期待があった。どんなに不安でもその一つの光があったから私は入部に踏み切れた。そして、担当楽器の発表。私の担当はフルートとピッコロ。二つも!と驚いた。そのうえ、先輩たちが練習していたコンクール曲のソロも任されたのだ。すごく嬉しかった。でも、同時に不安もあった。うまく吹けるか、同学年の人から何か言われるのでは、といろいろな考えが浮かんできた。そのため、何も言われていないのに無意識にみんなを避けていた。
 そんなある日の自主練習。いろいろと考えすぎて集中できず、気晴らしに楽譜を見ながら歌っていたら後ろから声がした。 
 「歌、上手だね。」           
 驚いて振り向くと、同じ木管楽器の女の子。クラスも一緒だった。女の子は笑いながら、
 「楽器二つやる上にソロもやって大変だと思うけど、私も協力するし、頑張ろう。」
と言ってくれた。私が不安に思う必要はなかったのだ。女の子はさらに言葉を続けた。
 「目が悪くても、そのせいで何かできないことがあっても、私はそれを迷惑とは思わない。それに、私もサポートするから何でも言って。その代わり私に音楽教えてよ。歌とかすごく上手だし。友達になろう。」
 カチャッ。心のどこかでかすかに扉が開いて、何かが入ってくるような不思議な感覚がした。温かく優しい何か。それが、「人とつながれない」という私の不安を外に押し出してくれる。そんな気がした。以前は誰かが入ってくるのが怖かったのに不思議とそのときは怖くなかった。音楽が私の世界に人を誘ってきたと思った。
 その女の子と少しずつ仲良くなり、彼女に励まされたコンクールも成功した。
 それから三年間、彼女とはずっと一緒のクラスになり、友達も少しずつ増えた。心の扉が徐々に開いていく。クラスの人とも話せるようになった。三年間で一人ぼっちだった心の世界に人の気配を感じるようになった。中学校の卒業式。「今までありがとう。」「高校に行っても頑張ろうね。」「いつでも相談してね。」別れを惜しみ、励まし合う中で友達の存在を感じた。友達がどのようなものか分かった気がした。心の世界に入ってくる人。心の扉を開けてくれる人。開いた扉から差し込む光は私の心を優しく照らす。そんな人を私は見つけることができた。それは音楽の力があったからだ。
 この三年間で私の中の音楽の在り方が変わった。ただ私を支えてくれた存在。そこから心の扉を開け、人が入りこむきっかけをつくる存在。そして、私が心に入れたい人を自分で探す勇気を与える存在へと。
 今、私は高校一年生で、盲学校という全く新しい環境を苦しいと感じることもある。だからこそ、音楽を続け、音楽が与えてくれたものを自分の力に変えていきたい。
 私を勇気づけてくれる音楽をみんなと一緒にやりたいと思い、新しく音楽部を創った。練習で音を重ねる中、様々な感情があふれてくる。楽しい。上手くなりたい。一人じゃない。もっとみんなのことを知りたい……。
 障がいを越えて、たくさんの人とつながることのできる音楽を、ずっと大好きでいたいと私は改めて思っている。