海外の部 EBU地域 ジュニア・グループ 佳作
心をこめて
スペイン     ミゲル・フェルナンデス・パエス(21歳・男性)
 親愛なる点字さま、
 私は、とてもあなたに感謝しています。何度もこの気持ちを伝えようと思いながら、どんな言葉で伝えたらいいか決められずにいましたが、ついに、私の感謝の気持ちを書くことにしました。まず、あなたが私や私のような多くの人達に、どれほど大事なものかをお伝えしたいと思います。

  フランス人のルイ・ブライユさんが、まさに細心の注意をはらって、あなたをつくり上げてくれたことに、私達はずっと感謝し続けることでしょう。点字は、視力を失うという、人生最大の、一生消えない衝撃を受けた私達にとって、永遠の贈り物となりました。

  私が言いたいのは、あなたは私にとって、離れることのできない、かけがえのない友であるということです。ですが、知っておいてほしいことがあって、打ち明けます。

  技術が進みグローバル化した今、あなたを好きでなくなる人達が増えているのです。

  どうしてそのような変化が起こったのでしょう?ブライユさんがあなたをつくり出した時、暗闇の中に暮らし、書くことで他の人とコミュニケーションを取ることができなかった人達にとって、あなたはトンネルの先に見えた光でした。あなたが例外なく誰にも、どれほど敬愛されていたか覚えていますか?長年待ち焦がれていた、言葉を紙で読むことができるようになったのですから当然です。あなたは広く使われるようになり、一般化し、永遠のものとなりました。でも、今日、か弱いメモリーやバーチャルという魔法がこれらすべてを壊そうとしています。私達は、力を合わせて、これに対抗しなければなりません。

  記憶が部分的に不確かになったり、宇宙のようにとらえどころのないものに対しては、私もトラフィックメモリーや触覚リアリティを利用します。でも、自分の記憶のテープを巻き戻して、ビクトル・マニェルの歌にあるように、あなたのことだけを思うのです。

  点字さま、私が5歳だったころを思う時、あなたのことを真っ先に思い出します。アナ先生が、クラスメートが教科書を見て勉強する中、私には、音節のつながり方をきめ細かく真剣に教えてくれました。そして、私の両親が、他の子供達と同じスピードで私が読めることを、喜ばしくも不思議そうにしていたことも覚えています。もう少し後になると、私の相棒だったパーキンスの点字タイプライターでやかましく音をたてながら、長い午前の試験時間を過ごしたこともありました。アナ先生が点字に書き写してくださったおかげで、私達は、鼓膜にタイプライターの音を響かせて、課題を克服していきました。あなたは大きな声を上げるのが好きでしたが、だれのことも見捨てず、良き友、こうるさい友となってくれました。時とともに、その音量は下がっていくことでしょう。

  高校時代に読書にふけった午後を思いおこす時も、あなたのことが思い出されます。それは静かな思い出ですが、人間の能力を超える世界との出会いでした。J.K.ローリングの分厚い物語の点字本とブレイル・ライトが傍らにありました。この二つのおかげで、この世界を手の中に収めることもできたし、そこから離れたい時には自由に離れることもできました。自分のペースで、時を忘れて読書にふけったり、このすばらしい機械とともに時を刻むこともできました。

  ブレイル・ライトで時間を確かめるのは、私の親友とも言えるニンテンドーのゲームで遊ぶのと同じくらいシンプルなことでした。人の声や電子音声機器無しに、このようなことができるなんて、想像もしていませんでした。

  映画「人生は素晴らしい」の主人公グイドがドラに魅せられて愛の言葉をささやいたように、私はあなたを打ち込むたびに、あなたに魅了されてきました。あなたを使い始めて以来、片時もあなたを思わない時はありません。私の存在は、すべての出来事が6つの点の組み合わせに翻訳されて無限に続くぺージなのです。どんな言葉も、長さや言語の種類、知っている言葉かどうか、発音されたかどうかにかかわらず、私の耳から入って、点字に変換されずに脳で理解されることはありません。コンピュータの進歩で日常生活が便利になったことを否定するつもりはありませんが、それによって、あなたまでもが追いやられてしまうことなどあり得るでしょうか?他の視覚障碍者の人達から、意識的にしろ無意識にしろ、私がしてきたような現実を理解するやり方が奪われることは理解できません。それは、これまでの何世紀にもわたる苦難を無にしてしまうことであり、私はそれに反対します。

  それに、知っていますか?すべてが失われつつあるわけではなく、希望もあるのです。

 多くの晴眼者が、あなたの秘密を解明しようと関心を持ってくれています。私の友人のAlbaは、あなたの魅力の基本だけでもわかるようになりたい、と言っています。彼女は、何か国もを旅した後で、ヒューマニストのライナー・マリア・リクルが真の祖国は子供時代だと書いたように、そのころに帰りたいと願っていました。彼女は、エレベータに突起のついた数字を見つけてびっくりし、それがすべて同じに見えたことが悔しかったそうです。そして、彼女の名前が、大文字表記を除けばすべて左手だけで表せる数少ない名前だと知って、感激していました。

  また別の視覚障碍者の友人のルシアは、彼女が7歳の時、かくれんぼをしていて転び、足に大けがをしたそうです。医師に17針縫うと言われた時、彼女は、両親の困惑をよそに、一瞬黙ってから、笑みをうかべて、「17針、それはぴったりよ」と言ったそうです。「2足す4は6、6足す1は7、7足す2は9、9足す3は12、12足す3は15、15足す2は17! b,r,a,i.l,l,e Braille(点字)ですね、先生!」と。

  私に関しては、ご想像通り、今では寝ている時も昼間でも、あなたのことを思って(夢見て)います。

  例えば、駒には触らず、特製のチェス盤の側面に表示される文字と番号を頼りにするチェスのゲームを想像し、あなたのことを思って(夢見て)います。点字ラベルをもとに薬を飲む時にも、あなたほど効果的なプラシーボ(偽薬)はありませんし、シャワーを浴びる時にも、あなたの文字に触ってシャンプーを確認してさっぱりできるわけです。そして、サッカーチーム「アトレティコ・デ・マドリード」のシャツに、ヨーロッパチャンピオン、そしてディエゴ・パブロ・シメオン選手の名前と「皆が眠る時、我らは夢見る」というチームのキャプションでデコレーションする自分を想像することもできるのです。

  暗い中での空想のお話しをすれば、テレビに「点字モード」がついて、離れたところからでもせりふが読めたり、音が無くてもテレビのシーンを解読できたりするのです。

  同様に、楽譜が磁石の連続になって、うんざりするほど長い時間をかけて暗譜する必要がなくなったりするのです。このような空想は広がりますが、なんと言っても、視覚障碍者の誰もに、あなたへの愛が、生まれながらに無条件でインプットされているのです。

  私の親愛なる点字さま、
 私は、本当に心からあなたに感謝しています。