海外の部 WBU-AP地域 シニア・グループ 佳作
「アルハンブラの思い出」を演奏するために
オーストラリア  アラン・バートレット(53歳・男性)
 私は名の知れたクラシックギター奏者で、堂々とした演奏で知られています。定期的に人前で演奏します。演奏することが大好きです。でも、皆さんは私のことなど聞いたこともないでしょう。というのも、私が有名なのは、小さな町の中と家族の間だけだからです。でも、その中では私はレジェンドの扱いを受けています。レジェンドは冗談ですが、でも、それくらい夢を持ってもいいですよね。
 このレジェンドへの道、誰からも愛される優れた奏者への道の始まりは、クラシックギターの美しい魅惑的な音を聞いたことでした。私は長年音楽を聴いてきました。実際にレジェンドであり有名なクラシックギター奏者兼歌手でもあるホセ ・フェリシアーノをはじめ、好きな奏者がたくさんいます。でも、そのどれにもまして特別なギター曲が1曲あります。
 「アルハンブラの思い出」です。スペインの作曲家でありギタリストでもあるフランシスコ ・タレガが1896年に作曲した曲です。曲全体を通して流れる低い壮大なベース音。美しく連続的なアルペジオを基調としたトレモロ奏法。流れるようなメロディー。それらが相まって愛すべきスペインの雰囲気が醸し出されます。
 バザーで買った、世界トップクラスのクラシックギター奏者ジョン・ウィリアムズのCDにこの曲が収められていました。その演奏を聞いたとき、自分もギターでこの曲を演奏したいという抑えがたい願望がわき上がりました。  そのとき私のギターは中級レベルで、この曲で使われている奏法は私には難しすぎました。ですので、何が私を虜にしたのかわかりません。しかし、ギターの上に置いた自分の指の下からこの魅惑的な曲がこぼれ落ち、周囲に響きわたる。そんな演奏がしたいというそのときの強い気持ちを忘れることはありませんでした。
 でも、そのためには点字楽譜を学ぶ必要がありました。楽譜が読めてはじめて作曲家が意図したとおりに演奏することができるからです。点字楽譜を勉強したのは学生のときで今はその腕もさび付いていたため、既習者対象の点字楽譜コースを受けることにしました。すばらしい先生の下で学び、順調に進んでいきました。あっという間に、私は難しい二重メロディーのギター曲に取り掛かる準備ができました。
 さらなる準備として多くのギター曲の点字楽譜を学び、いよいよ「アルハンブラの思い出」を演奏する準備が整ったと思いました。そこで、図書館に点字楽譜の作成を依頼しました。このすばらしい曲を点字楽譜に翻訳してくれた方に感謝しています。
 この点字楽譜を受け取ったときには、早く練習を始めたい気持ちでいっぱいでした。驚いたことに滑り出しは上々でした。比較的簡単に曲の大部分を学び、記憶することができました。想像できると思いますが、ギターを弾くには両手を使うので、視覚障害者がギターを学ぶときは、実際に弾く前にまず1小節ずつ楽譜を覚えなければなりません。ただ、右手で点字楽譜を読みながら、実際のギターの左手の指パターンとコードを練習していく方法もあります。
 でも、思わぬ落とし穴が待っていました。左手の指がうまく弾けない小節が1つあったのです。何回も挑戦しましたがうまくいかず、いらいらして、結局あきらめて投げ出してしまいました。また後で弾けばいい、と思ったのです。私が弾けない小節は曲の重要な部分で、その小節なしでは全体の流れが失われてしまいます。その後も何度か練習しましたが、うまくいきませんでした。
 がっかりして、よく知られた、ありきたりのスペインロマン調のクラシックギター曲を演奏したりしていました。「アルハンブラの思い出」をもう弾けないかもしれない、と思うこともありました。でも、安心してください。この話はハッピー・エンドです。終わり良ければすべて良し、です。
 ある日、私は 「アルハンブラの思い出」の弾き方のデモンストレーションをYou Tubeで聞いていました。自分が演奏できなかったあの忌まわしい小節にくるまで、You Tubeの演奏に合わせて私もギターを弾いていました。そのとき突然、何年もの間、ちょっと間違ってその小節を弾いていたことに気付きました。D弦のところをG弦で演奏していたのです。何と言っていいかわかりませんが、そのときのひらめき、発見、興奮は本当に信じられせんでした。指パターンを修正した途端に、いやはやびっくり、曲全体を正しく演奏することができたのです。
 点字楽譜なしでは、この目標を達成できなかったでしょう。途中で助けてもらったインターネットの力にも感謝しています。大きな賞を受賞するとか、権威のあるギター大会で審査員に高く評価されるなどということはないでしょう。でも、私の家族はこの達成を本当に喜んでくれました。私も幸せでした。まだ「アルハンブラの思い出」を人前で演奏する勇気はありません。でも、いつかその日がくるかもしれません。大きな目標を達成したことで、少し高価な単板のクラシックギターを購入しました。このすばらしい「アルハンブラの思い出」を演奏するのに必要だと思ったからです。