第13回オンキヨー世界点字作文コンクール 国内部門
本年度は181編の応募があり、作家の玉岡かおるさんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)
最優秀オーツキ賞 正賞20万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
成人の部
優秀賞 正賞7万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞3万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
学生の部
優秀賞 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞(小・中学生対象) 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
サポートの部
優秀賞 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞 正賞商品券(1万円分)
作詞賞 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
作詞奨励賞 正賞商品券(1万円分)
 
選評 「指先に宿る 感動伝える力」

作家 玉岡 かおる(たまおか かおる)氏
 (総評)今年も力作が集まり、選考というより一読者として感動の連続だった。
 点字作文の評価とは、文章の技巧や完成度以上にその中身、つまり書き手の生き方の姿勢にあるのであろう。視力を失うという大きな苦難を受け入れつつ、どれだけ前向きに、どれだけ明るく、しあわせな人生を満たしていくか。そのありように感動がある。その意味で、最終選考に残った作品はどれも甲乙つけがたく、皆で唸(うな)った。
 美しい音楽が聞こえてくるもの、あざやかな色彩が浮かんでくるもの、温かな触感が伝わってくるもの。すべて、視覚だけでは感じ得ない世界がゆたかに表現されていた。なるほどそういうとらえ方があるかと、ふだんの自分を省みさせられる発見といえよう。
 だから賞のあるなしは、わずかな得点差としか言いようがない。感動は日々の暮らしの中にある。そしてそれを逃さぬ感性の内に定着し、それを伝えようと文字を組み立てる指先に宿るのだ。これだけの内容を表すために払われた皆様の努力に、敬意を表したい。
 (成人の部) まずどちらを選ぶか紛糾したのが山本道子さんの「金色のハーモニカ」と林美穂さんの「一杯のコーヒーから」の2作。山本さんの作品は現代的な明るい会話のかけあいから、友の死という重い展開を乗り越え、さわやかな音楽が聞こえるラスト。林さんの作品は、あたたかなふれあいをテーマとしつつも、視覚障害の方々が生活する社会の問題点を浮き彫りにし反省を促す。ぜひ多くの人に読んでもらいたい作品だ。また松下恵さんの「私が奇麗になる魔法」は、女性が美しくあろうとする姿勢を体験を通して書かれたポジティブな作品。入選には届かなかったが、サポートの部で、そのブラインドメイクを考案された大石華法(かほう)さんの「あなたもシンデレラ姫になーれ!」があり、表裏を興味深く読めた。
 (学生の部) 中島由貴さんの「不自由なところを補う工夫」は実にしっかりした論調に唸らされたが、障害者だけにとどまらず高齢化の進む社会でも、不自由になる生活をどう工夫したら良いかのヒントにもなると感じた。出色は小学3年生の遠野希来々(きらら)さんの「点字と私」。大人の健常者が気づかない社会の不備が、子供の目線で指摘されているだけでなく、不自由なく暮らして誰かの役に立ちたいとの思いに深く胸打たれた。
 (サポートの部)  ご自身も視覚障害を持ちながら、より重度な障害を持つ家族を支える側として書かれた松崎梨沙さんの「息子のために 息子のおかげ」は家族の絆を再認識させる温かな作品。高橋りくさんの「現代美術から発表するマリス宣言」は、自殺という最悪の結果を選ばれたお父様の心に向き合いながら成長し、見えない人にも見える絵を、と道を切り開かれたご努力が圧巻。鈴木大輔さんの「かたこと」は、軽妙な文章の中に、どうやって目の見えない方に演劇やプロレスのおもしろさを伝えるか、斬新な工夫を重ねられた軌跡に、なるほどとさまざま発見させてもらった。
 
作詞賞選評

歌人/童話作家 松村 由利子(まつむら ゆりこ)氏
 点字、点字ブロック、盲導犬など、見えない方を取り巻く日常が、触覚、嗅覚、聴覚で表現され、イメージが膨らむ作品が多かった。高齢の方は七五調を用いたリズムのよさや明るさがあり、若い方は表現にみずみずしさがあって、それぞれに楽しめました。作詞賞の藤森さんの「イエローライン」は、不安感や絶望感を抱きつつ、前向きに生きようとする思いをドラマティックにうたっていました。表題は「点字ブロック」を想起させ、それがどれだけ大事なものかについて社会に訴える内容です。また、「イエローライン」という道しるべを、時には外れてみたいという冒険心もうたわれていて、見えている人にとっても勇気と希望を与えてくれる作品ではないかと思いました。
 奨励賞の杉元さんの「あしあと」は、盲導犬が大きな励ましや支えであること、その深い感謝の言葉が美しく表現されていて感動しました。竹浪さんの「いつか いっしょに」は「伴走者」というテーマが新鮮で、伴走のようなボランティア活動がもっと活発になれば、どこまでも続く山道を走っていけるんだという、未来に向かっていく感じに魅了されました。
 
入賞おめでとうございます
オンキヨー株式会社 名誉会長
  大朏 直人(おおつき なおと)
本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。
最優秀オーツキ賞 「金色のハーモニカ」  山本道子さん
明るい語り口の陰に、そこはかとない悲しみと喪失感、そして何よりも「彼」への深い愛情が感じられ、読んでいて涙を禁じえませんでした。山本さんが「彼」との繋がりを大切にされていたからこそ、「彼」にその思いが届き、また「彼」から大切な人への溢れんばかりの思いが、優しく暖かい音色となって山本さんに届いたのではないかと思います。「彼」にとって、山本さんの励ましが生きる力となっていた様子が伝わってきて、胸が熱くなりました。
「彼」への思いを込めて同級生と作った「金色のハーモニカ」、きっと「彼」の元に届いていることと思います。虹色の音色は、山本さんが「彼」のことを思い出すたびに、嬉しい時も、苦しい時も、きっと暖かく山本さんを包んで、これからの日々を支えてくれることでしょう。
成人の部
優秀賞 「一杯のコーヒーから」 林 美穂さん
優しい店長さんやそのお嬢さんとの点字を通した出会いや心温まるストーリーで、本当に深く感動しました。1月の肌寒い中自転車と接触事故をされ、救急車を待つ間、痛くそしてとても寂しい思いをされたことでしょう。そんな中温かいコーヒーカップを渡した店長さんとの出会いとそこで感じた優しさ。話はそれで終わるに留まらず、点字入りのクーポン券を通してその店長さんのお嬢さんとも触れ合います。 「優しいお父さんの顔でした。」と表現する林さんは全身でこの親子への感謝の気持ちを伝えたかったのではと思います。大変心苦しい体験をされたと思いますが、この作品を通し、読者にとって人との触れ合いや助け合いについて改めて考えるきっかけになればと感じています。
佳作 「私が奇麗になる魔法」 松下 恵さん
自分に自信を持ち、顔を上げて気分を高揚させるという個人的な側面と、周囲の人びとに心楽しい気分になってもらえるという社会的な側面から、お化粧には大変意義があると思います。お化粧をして奇麗になりたい、社会との繋がりを持ちたいという松下さんの気持ちが伝わってきました。ブラインドメイクに触れたことをきっかけに、大学で福祉の勉学に励んでおられるのは、素晴らしいことです。まさに松下さんにとって運命の出会いだったのでしょう。これからはブラインドメイクを社会に広める側のお立場になられるかと思いますが、ご自身が「奇麗になる魔法」に出会ったときの感動を忘れずに、精進なさってください。
学生の部
優秀賞 「不自由なところを補う工夫」 中島 由貴さん
普段の生活の中で工夫し行動して行くことはとても大切な事です。私も物事を進める時には、工夫を心掛け、現状がより良い方向へ進むよう取り組んでいます。中島さんは自分の気持ちをしっかりと伝えることが、自らを成長させ将来に備えるためにも必要であると気づいた事から、色々な工夫に目を向けるようになりました。周囲からのアドバイスで、更なる工夫を実行し自分の気持ちをしっかりと表すことも出来たのだと思います。また、パラリンピックの合宿の中で大きな目標に取り組む方と出会い、お互い不自由なところを補う工夫をすれば大きな夢に向かって取り組める事が分かった事は中島さんにとって貴重な経験になったと思います。これからも様々な工夫に取り組んで頂き、ご自身が描く未来に向けて進まれることを期待しています。
特別賞 「点字と私」  遠野 希来々さん
点字を勉強しなくてはならないという嫌な気持ちがありながらも、自分自身の名前からご家族の名前へと一つ一つ覚えていく度に遠野さんにとっての点字の世界が広がっていくのが感じられました。また、周囲の方たちが点字早読み大会を開催するなど、遠野さんにとって勉強しやすい環境を提供をされていることも非常に印象的でした。残念ながら今の日本では、生活をする上での全ての場面に点字が整備されているわけではありません。「ここに点字があれば」という場面にこれからたくさん出会うと思います。そんな場面に出会ったとしても、遠野さん自身の言葉でその必要性を伝えて行こうとすることを諦めないでください。一つでも多く、遠野さんのやりたいことが実現できる社会になることを私も願っております。
サポートの部
優秀賞 「息子のために 息子のおかげ」 松ア 梨沙さん
冒頭インドの占い師の予言に始まり、ご子息が誕生される「運命」に、ぐっと引き込まれました。視力が低下し、一時はポジティブさを失ってしまったというご主人、そしてどんどん暗くなっていく家の中の雰囲気。これらを小さな命が、まさに占い師の言った通り、「助けて」いく。今もきっと、ご主人は点字の勉強に勤しんでいらっしゃると思います。一緒に絵本を楽しめる日を、ご家族全員が楽しみにされていることでしょう。近い将来の、あたたかな団欒の様子が目に浮かびます。ご子息の健やかな成長と、松アさんご夫婦の明るい未来を祈らないではいられません。
佳作 「現代美術から発表するマリス宣言」 高橋 りく さん
幼い日の体験や身近な人との関わりが今に繋がっている力強い「宣言」だと感じました。全盲の方でも楽しめる絵画を世界に広めるという、一見不可能のような夢ですが、すでにそのための活動を行っているということに、高橋さんの意思の強さを感じました。体の不自由な方に出会ったときに、その人の立場に立ち、その人のために何か行動するということは、とても難しいことだと思います。何かしようと思ったとしても、迷惑だと感じられたらなどと迷いが生じる人が大半ではないでしょうか。簡単なことのようで簡単ではない、人を思いやるということの大切さを改めて考えさせられました。
特別賞 「かたこと」 鈴木 大輔さん
プロレスや映画という視覚で理解し、楽しみ感動するものを、言葉で伝えて耳で理解してもらう。これまで人生で視覚として理解したものを、視覚では理解できない人に伝えることは、自分の感覚に頼った考え方ではできることではないと思います。しかし鈴木さんが視覚障がいの人から「役に立った」と声をかけられた時、気がついたのだと思います。視覚障がいの方の目となり、その人に向き合うことで、初めてその人々が必要としていることがわかり、知らなかったことに気付かされ、自分の世界が変わるということを。
例え目が見えなくても耳が聞こえなくても、人は五感を通じて理解し成長し合えるという姿をこの物語から感じ取ることができました。
作詞賞 「イエローライン」 藤森 里枝さん
黄色の点字ブロックをイエローラインと表現されたこと、そのラインがどれほど人生に深く関わっているのかというのがよく伝わってきました。真っ直ぐに伸びたイエローラインが人生の指針となり、未来に向かって進んで行こうという力強い意思を感じたり、時にはラインを外れてもひと時のやさしい時間を味わったり、悲しい気持ちになることがあったり、様々な感情を想起されましたが、最後は顔を上げて進んで行かれるような、頼もしいさも感じられました。
作詞奨励賞 「あしあと」 杉元 あけみさん
第11回のオーツキ賞を受賞された杉元さんの奥様になられた方からの応募があり、とても嬉しく思います。人生のパートナーとも言える盲導犬への深い愛、その盲導犬の暖かいまなざしも容易に思い浮かべられる作品です。お互いに慈しみ合い寄り添って歩んだ人生の軌跡を、二人のあしあとに刻み付け、二人で過ごした日々は心の中に永遠に残っていくことでしょう。感動的な思いが強く残りました。
作詞奨励賞  「いつか いっしょに」 竹浪 清春さん
人生を笑顔と共に歩んでくれる理解者がいてくれたら、人生はとても豊かになることでしょう。大きく拡がる景色、山々に響きわたるハルゼミの鳴き声、雄大な山並みを、目を閉じても感じられるようでした。そしてそれを一緒に共有してくれる笑顔の優しい人、そんな人と出会えることへ夢を持った前向きな気持ちがとても印象的でした。