第12回オンキヨー世界点字作文コンクール 国内部門
本年度は170編の応募があり、作家の玉岡かおるさんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)
最優秀オーツキ賞 正賞20万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
成人の部
優秀賞 正賞10万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
学生の部
優秀賞 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞(小・中学生対象) 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
サポートの部
優秀賞 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞 正賞商品券(1万円分)
 
選評 「指先から伝わる文字の力」

作家 玉岡かおる(たまおか・かおる)氏
 人類が生み出したさまざまなツールで、もっとも功績が大きかったのは文字であろう。文字に書き記すことで、相手が知らない、気づかない世界を伝え合える。その意義の大きさを、今回ほど痛切に再認識させられたことはない。見える文字はなくとも、指先で触れる小さな点字により、これほども多様な体験や思いが表され、伝わってこようとは。
 読むに当たり、私個人が設けた観点は五つ。(1) 深く心を動かされる感動、(2) ああそうなのかと驚かされる感銘、(3) ほんとうにそうだと心に訴える共感、(4) もっと広く知らしめたいという広報性、アピール度。そして最後はやはり作文なので、(5) 表記や技巧も外せない。
 とはいえ、皆さん、ふだんからよく本を読み、書くことも訓練されているのだろう。表現技巧はどれも遜色がなく、内容、視点、感性で競い合うことになったことは意義深い。
 成人の部では、進行性の難病を抱えながらも明るい筆致の山本裕子さんの「点字でしゃべる」が全選考委員から高得点を得た。何よりご夫妻の会話がいきいきしている。情景が目に浮かぶようなてのひら書きのやりとりは、ぬくもりまでも伝わる気がした。中村和子さんの「点字は心を写す文字」は、文字オンリーなのに色彩が浮かぶ作品。視覚に障害があってもおしゃれは忘れない、そんな姿勢が共感を呼んだ。上地翔子さんの「私の目指す道」は若さの気概と決意が好ましい。
 学生の部では大久保春佳さんの「きっかけ」が優秀賞に選ばれた。白杖を持ちたくなかった筆者が家族にささえられて変化していく心情が素直に書かれており、周囲や社会に喚起を促す力も持っている。石井千月呼さんの「点字にさわる」は点字を通じた友情がほほえましく、それならわたしにもできる、と刺激される広報性も併せ持つ。
 サポートの部は、どれかを選ぶなど困難なほどの秀作ぞろい。ともかく活動の中身に頭が下がる。議論のすえ、関場理華さんの「点字百人一首への挑戦」が、全盲対晴眼で対等の決戦をする機会を作っていった工夫を評価された。むろん、名刺に点字を打ち込む作業で障害者への仕事を生み出し、社会に点字の存在を知らしめる斯波千秋さんの「ウイズ最初の仕事」もすばらしい。中山敬さんの「伯父に導かれて」では、点字出版を通じ、点訳した本すべてがおもしろくなる、との表現に唸(うな)った。加治川千賀子さんの「共感しあえるサポーターをめざして」は、まず意識を変えることの大切さが書かれ、自分もできるかもしれないとの可能性を探らせてくれる。
 以上、皆様方のご健筆には心からの賛辞を送りたい。これら作品が広く読まれ、社会に問うきっかけとなることを願っている。
 
入賞おめでとうございます
オンキヨー株式会社 名誉会長
  大朏 直人(おおつき なおと)
本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。
最優秀オーツキ賞 「点字でしゃべる」  山本裕子さん
伝えたいのに伝えられない、知りたいのに分からない――ビビンバ丼の湯気の向こうで、お二人にとってなんと歯痒い瞬間だったろうと想像します。徐々に聴覚障がいが進行していく裕子さんの辛さも相当だと思いますが、その傍らでいつも裕子さんを見守るご家族の方にとってもご苦労があると思います。心が最も動かされたのは、裕子さんをはじめご家族みなさんが、あきらめない、やめない、という姿勢を貫いていらっしゃることでした。愛する妻のため、母のために、ひたむきに話す術(すべ)を身につけようとするご家族からは、尊敬という言葉が色あせて見えるくらいの強さを感じ取りました。
そして、裕子さんは「お父さんの目に映る情景を感じながら日々をともに過ごしていけることを楽しみにしています」と表現されています。一見するとゆったりとした時の流れさえ感じさせるこの心象風景。しかしその礎になっているのは、強靭な夫婦の絆、脈々と血が通った家族の結束なのだと確信しました。「言葉」ではなく、「ことば」でもなく、お互いがいてくれさえするだけで、十分に心で会話ができることを、読む人にやさしく教えてくれる、そんな素敵な作品でした。
成人の部
優秀賞 「点字は心を写す文字」 中村 和子さん
バスの時刻表などの生活用ツールから、おしゃれ用の目印まで─。点字を活用して暮らしに彩りを添え、明るく前向きに過ごしていらっしゃる様子がとても印象的でした。ポケットに点字メモを入れて、生き生きと洋服をコーディネートする姿が目に浮かびます。
完全に光を失ってから、点字の習得をはじめとして並々ならぬ努力や忍耐を重ねてこられたことと思いますが、今、視覚以外の感覚を総動員して季節の移ろいを感じとっている中村さんには、きっと目の見える人には見えていないものがたくさん見えていることでしょう。幸せとは、心の持ち方次第。中村さんの文章を読んで、改めて実感いたしました。
中村さんにとって、点字はもはや単なるツールではなく、人生に欠かせないパートナーとなっていることと思います。これからも想像の翼を広げ、心の目で自由に世界を写していくとともに、点字を通して人生を豊かにする喜びを、多くの生徒さんと共有してください。
佳作 「私の目指す道」 上地翔子さん
冒頭「あきらめない」という言葉で始まり、「私は夢をあきらめない」という言葉で締めくくられる作品。上地さんの前向きでどんな困難にも立ち向かう「あきらめない」気持ちを強く感じました。幼いころからご苦労があったようですが、仲間や音楽との出会いが心の支えになられたのですね。何度も悔し涙を流された就職活動時の困難を乗り越えられたのもやはり「音楽」の力でした。
夢や目標に向かって進む姿は周りの人の気持ちを明るくさせ、何より自分自身の人生を豊かにし、生きる原動力になると私は思っています。韓国語のスピーチコンテストで優勝なされたのも、上地さんのそういう前向きな思いが伝わったからではないでしょうか。「歌手になりたい。音楽で恩返しをしたい」という夢、これからも大事になさってください。
学生の部
優秀賞 「きっかけ」 大久保春佳さん
何事も初めての挑戦には勇気が必要だと思います。大久保さんの場合は今回、「白杖を持って歩く」という行為が初めての挑戦になったのだと思います。私はこの「挑戦」ということについて普段から考えていることがあります。初めての挑戦をする際に悩んでいたことというのは、実際に行動した後で考えてみると案外小さな悩みであることが多いということです。しかし、そのような悩みは意味がないというわけではなく、どんな悩みであっても、最終的には「挑戦をした」という行為自体が大きな財産になるのです。つまり、今回白杖を手にしたことは大久保さんにとって一つの成功体験であり、今後何かに挑戦する時にも心の支えになるはずです。そして、恐らく大久保さんもこれだけに止まらず、様々な成功をして今まで壁を乗り越えてきておられるのだと思います。今後の人生で壁に直面した時には、是非それらの体験を思い出して勇気を出してください。きっと自分が思っているよりも簡単に壁は越えられるはずです。
佳作 「点字にさわる」 石井 千月呼さん
小さい時から、勉強としてではなく、遊びの一環として、楽しく「点字」を学習する工夫をされたお母様。
他の生徒に「点字」に触れてもらう機会、他の生徒とのコミュニケーションの機会を作り、「点字」が難しいものではなく楽しいものだと教えていただいた、小学校ならびに担任の先生の努力が、多くの友達との楽しい出会いを作ったのだと思います。
「点字」が、読み書きだけの手段ではなく、友達を作り、世界を広げるツールとなっていることが表現されており、「点字」の素晴らしさがよく伝わってきました。
それは石井さんが怖がらず、積極的に多くの方とコミュニケーションを取られた結果だと思います。
今後も積極的に活動され、より多くの友達との楽しい思い出を作ってください。
特別賞 「ありがとう」  辻本麗美さん
辻本さんが「ありがとう」という言葉の意味を理解するまで、またそれが自らの言葉として発せられるまでの気持ちの変化がよくわかる作品です。
周囲の人たちの好意に対して、それを「あたりまえ」と思っていたことを、日頃からのお母さんとのやり取りや、学校ではじめて友達ができ、その友達との交流の中から「ありがたい」という気持ちが芽生え、あることがきっかけで言葉として心から「ありがとう」と言えたこと。これまでこのことに気付かせてくれた人達や、これからもたくさん出会うであろう多くの人達に対して、感謝の気持ちを忘れずに接していってくださいね。
私もこの作品を通じて、改めて「ありがとう」という言葉と、感謝の気持ちを持つことの大切さを教わった気がします。辻本さん、本当に「ありがとう」。
サポートの部
優秀賞 「点字百人一首への挑戦」 関場理華さん
この世の中、仕事でも遊びでも、やってみなければわからないことは案外多いと思います。それなのに、やりもしないで、無理だろうとか、つまらないだろうと自己完結してしまって、なかなか行動に移せないものです。ですが、関場さんは、点字の百人一首はおもしろいのではないかと考えてすぐに作ってやってみた。そうしたら本当におもしろく、目が不自由な人でも楽しめるものだとわかったわけですね。実際に行動してみないとわからない発見だと思います。「とにかくやってみる」そんな気持ちを持ち続けて、行動する人物でありたいと、「点字百人一首への挑戦」を読んで思いました。実践、気づき、創意工夫。わくわくする人生を歩みながら、周囲を巻き込んでいくためのヒントが、この作品にはたくさん詰まっていると思います。
点字百人一首がもっとたくさんの笑顔を生む遊びとなって、世界中に広まっていくことを願っております。
佳作 「伯父に導かれて」 中山敬さん
誠実で思いやりがある中山さんの人柄が伝わってくる作品です。
子供のころから可愛がられていた伯父様の目が見えないという事実を意識されてからは、今までと同じように伯父様と話せなくなったそうですが、伯父様へ手紙を書こうとしたことをきっかけに点字を習い始め、それが現在の仕事にまで結びついています。
伯父様との手紙を通じてのやり取りや、仕事に熱心に向き合うことで、点字に対する面白さを見出し、人との繋がりを増やしてきたことがよく読み取れます。仕事を通じてお知り合いになられた方と伯父様に接点があることがわかり、とても伯父様に感謝され、現在の仕事を使命のように感じ取られたようです。
今までの人脈がいつどこでつながるかはわかりませんが、意外な繋がりがあると知った時の偶然は喜ばしいものです。これからも多くの人との繋がりを大切にしてください。
特別賞 「視覚障害を理解することから共感しあえるサポーターをめざして」
加治川千賀子さん
点字を習得した喜びから、点訳で視覚障害者の方のお手伝いをしたいと意気揚々と勢いこんだところが、「点訳の前に私たちの生活を知ってくださいな」とやんわりたしなめられるという出来事で少し落ち込まれます。自身で良いと考えていたことと実際に望まれていることの違いがあるということを実体験によって感じることができたことで、本当に喜ばれるサポートとはどういうことかと考えるきっかけになったようですね。それはとりもなおさず、どんな人との関わりにおいて共通する真実ではないでしょうか。点字を学ぶだけではなく、点字を通して人との付き合い、コミュニケーションを学ぶことになったことはとても貴重な体験だと思います。これからも心のこもった真に必要とされる支援を続けられることを期待しています。
特別賞 「ウイズ 最初の仕事」  斯波千秋さん
本作品からは、開所から20年を迎えてますます進化を続ける作業所ウイズの誇りや、斯波さんの点字の仕事への想いを感じることができます。
何度も何度も反復して練習し、間違いができない緊張感の中で慎重に1枚の名刺を作り上げます。斯波さんはその中で点字を覚え、点字を伝えるという前向きな気持ちで仕事に取り組んでこられました。
点字の名刺を受け取った方が、新しいお客様になるというシステムになったのも、1枚の点字の名刺に込められた様々な思いが受け取った相手に伝わったからなのだと思います。
また、ウイズには、いっしょに仕事をして楽しい時を過ごすという意味が込められ、仕事を通じてリハビリをする機能もあり、仲間としての一体感が高まる場所なのだと思います。
このようにウイズは、生きる自信を芽生えさせる環境となっているのだと思います。
みなさんの想いがこもった自慢の名刺をこれからも作り続けてください。