第10回オンキヨー世界点字作文コンクール 国内部門
本年度は44編の応募があり、作家の難波利三さんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)
最優秀オーツキ賞 正賞20万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
成人の部
優秀賞 正賞10万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
学生の部
優秀賞 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞(小・中学生対象) 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
 
選評 「心の目の素晴らしさ」

作家 難波利三(なんば・としぞう)氏
 最優秀オーツキ賞・五味嘉信さんの「花は見えなくても」は、花見を楽しむ心の余裕が時間の流れと共に綴(つづ)られていて実に気持ちが良い。的確な描写力と豊かな感性に魅了され、こちらもその場に居合わせるような気分に浸れる。ヒールの音も鳥のさえずりも聞こえ、挨拶(あいさつ)を交わす女性の笑顔も確かに浮かぶ。「見える見えないに関係なく、生活を楽しむ気持ちがあるか否かの問題」という五味さんの、充実した日ごろの暮らしぶりが想像され、心の目の素晴らしさに改めて気付かされる作品である。
 成人の部の優秀賞・窪田雅枝さんの「マーガレット」。試行錯誤の卵焼き作りやワンピース作りが具体的に描かれ、点字を学ぶ努力が結果に繋(つな)がることを再確認し、自信が持てるようになる。チャレンジ精神が見事である。
 佳作は2作。阿藤純子さんの「私が貰(もら)った大切なもの」。大学を卒業時に失明して絶望的な日々を過ごすうち、自立に目覚めて一緒に暮らし始めた盲導犬から生きる「楽しみ」を教えられる。ほのぼのとした余韻が残る。石田由香理さんの「平等なチャンス」。自分の母親から浴びせられた厳しい言葉を底流に、視覚障害児の可能性を否定し、努力する機会を奪おうとする国の存在に憤りを感じる。一途(いちず)な情熱の迸(ほとばし)りが純粋だ。
 学生の部の優秀賞・勝又るいさんの「トビウオの羽」。新潟から治療に通う東京で、母と入った焼き鳥屋で歓待され、初めてトビウオに触れる。その体験がまだ知らない世界を知り、多くの人に出会いたい願望へと広がる。最後の一行は希望に満ちて印象的である。
 佳作・千代谷悠希さんの「当たり前の共有を目指して」。できること、できないことを含めた自分らしさをアピールして、しっかり生きたいという強い意志が達意の文章で綴られ、心地よく反響してくる。
 特別賞2作。矢澤彩夏さんの「かわった自分」。寂しい思い出から友達ができた喜びへと代わり、文化祭の体験で「見えなくてもできる」と学ぶ。前向きに生きる決意が清々(すがすが)しい。菅田利佳さんの「夢に向かって」。点字楽譜を読み取ってピアノとバイオリンを習い、親友もできて音楽の先生になりたい夢を持つ。点訳のボランティアや指導の先生への感謝の気持ちが素直に表れていて好ましい。
 
入賞おめでとうございます
オンキヨー株式会社 名誉会長
  大朏 直人(おおつき なおと)
本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。
最優秀オーツキ賞 「花はみえなくても」  五味嘉信さん
最優秀オーツキ賞、受賞おめでとうございます。五味さんの作品を読んでいると、桜並木や暮れなずむ空が目に浮かびます。また、自販機でのエピソードを読んでいても、ホッと心が温まるようでした。現代は機械やコンクリートが街に増え、無機的で冷たい印象を受けるとよく言われます。しかし、そのように感じるのは心に余裕がないからなのかもしれません。作中にあるように、見える見えないは関係なく、生活を楽しむ気持ちを持てば五味さんのように温かい気持ちになれるのだと思います。見えなくても相手の笑顔を、満開の桜を、お花見の雰囲気を感じることができる――そんな、とても大切なことを教えてくれる素晴らしい作品でした。日本は四季の国です。これからも四季折々の風景を感じ続けられるような、温かい心を持ち続けてください。
成人の部
優秀賞 「マーガレット」  窪田雅枝さん
点字をきっかけに、卵焼きや裁縫と、試行錯誤されつつも挑戦を重ね、達成されたエピソードが生き生きと描かれており、読み進めるうちにとてもあたたかい気持ちになりました。周囲の方を元気づける、窪田さんの優しくも強いお人柄が伝わる作品だと思います。窪田さんが受け取った喜びの象徴である「マーガレット」。助けとなった点字へ贈った鉢植えの「マーガレット」がさらに咲き誇り、ご自身や周囲の方への花束となることを信じています。
佳作 「私がもらった大切なもの」 阿藤純子さん
作品は、盲導犬アリスとの別れの場面から始まります。
何も知らないまま車で運ばれるアリスと、裏切ってしまったのではないかという阿藤さんの言葉に別れの辛さを感じさせられました。また、自立するための意志、努力がとてもストレートに表現されており、その分、ご自身が抱えておられた不安も伝わってきます。アリスは生活のパートナーだけでなく、阿藤さんの心の支えとなっていたからこそ、様々な努力を続けて行くことができたのだと思います。
別れは辛いものであったと思いますが、今でもアリスと会い、癒されているとのことで、おそらくアリスも阿藤さんのお気持ちを理解していたことでしょう。アリスはこれからも多くの人に希望を与えていくでしょう。阿藤さんも、多くの患者さんに希望を与えられていると思いますので、ご自身も納得される生活を送られるようこれからのご活躍を期待しております。
佳作 「平等なチャンス」  石田由香理さん
「重いテーマ」だなと感じました。そして、作品中のお母様の言葉には、今の社会が持つ問題点が凝縮されていて、その厳しい現実を理解させようとする心遣いがあったのではないかと思いました。もちろん言われた方の受ける衝撃の大きさはどれほどであったでしょう?このように私自身が「重く」感じるのも社会の問題点のひとつなのだと思います。
同時に「熱い心」をお持ちだとも感じました。無力な存在と見なされているフィリピンの視覚障がい児に、同じ視覚障がい者として足し算・引き算を教える。このことは「やればできる」ということを、生徒やその親、さらに教員の方々にも伝えることができたと思います。すぐに結果が出ないかもしれませんが、全ての国の視覚障がい者がチャンスを平等に掴めるような社会を実現できるよう、頑張ってください。
学生の部
優秀賞 「トビウオの羽」 勝又るいさん
小学生の頃の東京での出会いが、今の勝又さんの出会いを大切にする姿勢に繋がっているのだと、この作品を読んで伝わってきました。東京で入った焼鳥屋さんのお客さん、店長さん、トビウオなど、その全ての出会いが勝又さんの知らなかった世界を教えてくれたことで、人との出会いの大切さや、新しいことへのチャレンジがどれだけ大切か、ということを知ることが出来たのだと思います。また、東京へ出てくる不安、東京に出てきてからの苦労など、新しい土地に一人でチャレンジするということで、辛いことが様々あったことでしょう。しかし、今、東京に来たことを良かったと思えるのであれば、今度はもっと大きなことにチャレンジが出来ると思います。これからは暖かい気持ちやエネルギーを勝又さんが「架橋」となって伝えていけるよう頑張ってください。
佳作 「当たり前の共有を目指して」 千代谷悠希さん
全盲ということで周囲の人々に特別扱いされていた小学時代、周囲に合わせようと無理をしていた中学時代、それまでとは全く違うタイプのクラスメートの理解しがたい態度に困惑した高校時代。いつも取り残されたような疎外感を持ち、悩んでこられた末にたどり着いた結論が、「ありのままの自分でいこう!」。とても力強い宣言に心が打たれました。どんな人でもその人なりの個性があり、ありのままでいることをお互いに受け入れること、その当たり前のことが真の理解につながるということを実感いたしました。ぜひそのまま強い心を持ち続けてください。そして、千代谷さんが望まれるような世界が来ることを信じて、これからも前向きにいろいろな事に挑戦してみてください。
特別賞 「かわった自分」  矢澤綾夏さん
弱視学級の友達、小学校3年生の時に出来た友達、盲学校での友達、そして旭町小学校の友達、その全ての出会いが、矢澤さんの心を変えていったのだと、この作品から伝わってきました。特に盲学校での「他人をリードするという経験」が、矢澤さんにとって自分に自信を持つ大きなきっかけとなったのだと思います。そして、その自信があったからこそ旭町小学校の友達ができ、自信を持つことで自分の可能性が拡がることを、この作品を通して改めて認識しました。矢澤さんも友達が増えたことで、さらに今まで以上に自信がついたことと思います。その自信を糧にすれば、将来見える人と一緒に仕事をしたり、見えない人と見える人を繋いだりすることが出来ると思いますので、是非これからもご自分の力を信じて頑張って下さい。
特別賞 「夢に向かって」  菅田利佳さん
小学校の3年生からピアノとバイオリンを習っておられ、最初は先生の手で直接指導された結果、大変な苦労をしながらでも前向きに練習を重ねて演奏できるようになったことに頭が下がる思いです。その後複雑になる練習曲を演奏するために、点字楽譜にも挑戦されるのですが、さらなる困難な課題にも取り組まれている練習風景や、困難を克服して演奏できるようになった時の嬉しい気持ちがとてもよく伝わってくる作品でした。これからも利佳さんが今までお世話になった方への感謝の気持ちを忘れず、将来は音楽の指導をされた先生のような立派な先生になれるようお祈りをいたします。そして点字楽譜を点訳していただいたボランティアのみなさんの前で演奏ができ、お礼が言えればいいですね。