第9回オンキヨー世界点字作文コンクール 国内部門
本年度は48編の応募があり、作家の藤本義一さんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)
最優秀オーツキ賞 正賞20万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
成人の部
優秀賞 正賞10万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
学生の部
優秀賞 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞(小・中学生対象) 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
 
選評 「甦(よみがえ)る力」

作家 藤本義一氏 
今年の各作品は最優秀オーツキ賞「3枚の地図」ですべてが語られているような気がする。失明前の地図、失明途中の地図、失明後の地図に関しての感覚、感想が、どの作品にも鮮やかに描かれているからである、
最優秀オーツキ賞の受賞者・前田康夫氏の頭に宿っている3枚の地図は、戦前の古い街並みの地図、自分の高校時代の地図、そして自分の頭に宿っている現在の地図が重なり合っている。健常者には不可能な3枚の地図が重なり合い、ただ平板な上に描かれた点や線、あるいは単なる商店とかビルといったもので終わることなく、さらにこの地図からは先般の東日本大震災で、町や道路が想像を絶した大津波で壊滅的状態になった記録が甦(よみがえ)る。少し心の余裕が甦り、さらに復興の力を述べる必要を感じたならば、人間としての謙虚さや情熱が大きな広がりをみせてくれることになる。
次に優秀賞「ある青年の言葉」に移ろう。作者の江川稔氏は60代に入ってから視覚障害になったため、障害に適応するのが苦しく、気力そのものも失われたと告白されていたが、生まれつき全盲の20歳の青年の言葉を聞き、こんなことで障害を恨むのは愚かだと気づき、65歳で点字を習い、3年後の現在は新聞のコラムが読めるようになり、時代小説を好むことまで知ったという。読書の領域が楽しく広まったことになる。
次に「忘れることのできない母の言葉」という佳作の作者・西田稔氏は、感受性の強い青年期に失明宣言を受けた。母は自分の眼(め)をやるとまでいった。その時の言葉を西田氏は母の死後に次の言葉にしている。

―― 失明を幸に変えよと言いし母 臨終の日も我に念押す
佳作の「青空」は明解にして爽(さわ)やかな作品である。作者の吉松政春氏は、講演の後で質問を受けることになっている。この質問内容が難しい。 「もし、見えるようになったら何を見たいですか」
即座に答えられるものではない。が、生徒たちがこの質問に点字で短く答えてくれた。その中に「私がもし見えなくなったら、もう一度みたいと思うのは青空です」というのがあった。詩的であり、人生の奥行きが広い。空の深さ。この青空こそが人生だ。
 
入賞おめでとうございます
オンキヨー株式会社 名誉会長
  大朏 直人(おおつき なおと)
本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。
最優秀オーツキ賞 「3枚の地図」  前田康夫さん
昨今の社会は、日常生活はもとより街の情景も再開発により目まぐるしく変化し、人々は最新技術に追いつこうと前を見て走り続けています。
前田さんの作品は、一足止めて振り返ることでほっと一息つける、読者を癒してくれる、そんな作品です。
街には近未来的な建物が並び、幼少期を過ごした懐かしい場所がなくなっていることも少なくありません。しかし、一息ついて昔の記憶を想い描くことで、未来だけを見ていると気づけない、ほっと一息つける場所を見つけられるのだと思います。
前田さんご自身は、昔から変わらず残っていたお寺の境内を見つけられました。その場所を中心にして、幼少期から現在までの街並みを重ね合わせ、移り変わりを懐かしみ、一息ついている情景が浮かんできました。
ゆっくりと過去を振り返り、心を落ち着かせる自分だけの場所。その場所を見つけに出かけ、その場所でゆっくりと心を休ませたくなる、読者をほっとさせる、そんな作品でした。
成人の部
優秀賞 「ある青年の言葉」  江川 稔さん
徐々に視力を失う不安の中、考え方を変えて現状を前向きに捉えることにより、向上心が生まれ、その結果、人生が楽しくなることを、この作品を通して教えていただきました。視力を失うという厳しい現実を、新しい経験を得られる機会と捉え、いろいろなことに挑戦する姿勢をたいへん心強く思います。「点字」・「パソコン」・「日曜大工」・「家庭菜園」といろんなことに挑戦し、達成したときの喜びがこの作品から伝わってきて、読んでいる私も楽しい気持ちになり、何かに挑戦したくなりました。これからも、いろんなことにぜひ挑戦してください。
佳作 「忘れることのできない母の言葉」  西田 稔さん
西田さんへの激励の意味を込めたお母様の言葉には、子を想う親の気持ちがあふれ出ていて、とてもあたたかい気持ちになりました。さらに「また来るからね」という言葉には、単なるあいさつではなく、決してあきらめないという強い決意が感じられますし、その決意をにじませながらお母様の帰って行く後ろ姿がすぐ目の前に見えるような感じがしました。
そのお母様の想いや決意に対して、まっすぐな気持ちで向き合いながらこれまで歩んでこられたことが、積極的に行っておられる活動の支えとなっているのではないでしょうか。ぜひともこれからもお母様の言葉を胸に、「貴重な体験」を生かしつつ、一歩ずつ着実に前に進んでいただき、多くの視覚障がい者の方々の喜ぶ顔があふれる活動を今後も続けていってください。
佳作 「青空」  吉松政春さん
この作品を読んでいると、急に私の目の前に青空が広がりました。そして読み終えた後、何とも言えない清々しい気持ちがしました。それは、この作品の中に出てくる「青空」が私に感じさせてくれた清々しさです。そして、ふと「私は最近空を見上げたことがあっただろうか?」と考えました。日々の生活の中で空を見上げ、一息つくということを忘れていたことに気付かされました。そんな私が、吉松さんの作品を通して、見た青空は、とても明るく、そしてとても力強いものでした。その青空に心が洗われ、元気づけられました。
人は心にこの青空を思い描けるから、強くいられるのだと思います。作品内容はもちろん、作品を通して心に青空をプレゼントしてもらえる、そんな素敵な作品でした。
学生の部
優秀賞 「伝える文字 生きる言葉」  加地理沙さん
私たち周りではいろいろな場所で点字が活用されています。ただ、点字利用者ではない人があの「ブツブツ」に触れても「文字」を読み取るのは難しく、何を表しているのかは点字利用者ではない人にとって難しいです。
加地さんの作品から、「ブツブツ」を「文字」として理解するまでの難しさと、その「文字」が生きた言葉として加地さんの中で躍動しているところが想像できます。点字の基本的な練習の繰り返しや、練習過程で感じる将来への不安感などを乗り越えて、加地さんの中で広がった新しい世界の光を感じ取れる作品です。
点字の魅力と難しさの両面を知っている加地さんの作品を、点字を練習されていたり、視力が低下する中で不安を感じていたりする方々にぜひ聞いてほしいと思います。
無機質に並んでいるように見える点字ですが、触れた瞬間、点字を打った人の個性が触読者の中で動きだし、生きた意味を持つのだと思いました。また、点字も墨字も同じ「言葉」なのだと、普段忘れがちなんだけど当たり前であることにも改めて認識させていただきました。
佳作 「未来に向かって」  藤縄佑樹さん
将来への不安を感じる中、思い切って未知の経験にチャレンジし、それを心から楽しむことによって、さらなるチャレンジの機会を引き寄せていく様子がとてもよく伝わってきました。
おばあちゃんの役に立ちたいという思いで考えた進路が叶わないと言われたときはとても辛かったことと思いますが、自分の力で前向きに新しい進路を切り開いていく姿に勇気づけられました。
初めてのコンサートに向けて練習を重ね、多くの拍手をもらえたときの藤縄さんの笑顔が目に浮かんできます。「人の役に立ちたい」という純粋な思いで奏でられた音楽は、きっと多くの人々の胸に深く響いたのではないでしょうか。
これからも様々な出会いと経験を通して、未来への扉がたくさん開かれるよう願っています。
特別賞 「僕と点字」  伊山功起さん
若くして大きな、そして困難な試練が立ちはだかり苦悩や葛藤があったことと思います。
点字を受け入れることは自分の「障がい」を受け入れること、伊山さんの作品を読みながらそのような葛藤が伝わってきました。そして、試練を目の前にしているにも関わらずポジティブに考える、そんな伊山さんの強さと思いきりの良さには感心させられました。伊山さんの「諦めずに頑張る」という決意があれば、点字盤を打てるようになるはずですし、その時は大きく成長していることでしょう。そして、必ず「点字にしてよかった」と思える日がやってくるでしょう。
是非、身近なライバルである友達と切磋琢磨し、伊山さんにとっての試練を乗り越えてください。応援しています。
特別賞 「点字競技会を振り返って」  奈良岡裕介さん
点字競技会について、そうした競技会があることは聞いたことがあるのですが、その中にどんな競技が含まれるのかなど、あまり詳しくは知りませんでした。奈良岡さんの作品を読んだとき、競技会の臨場感や競技のスピード感を体感できたような気がしました。また、思うような結果を残せず悔いが残ってしまったときの悔しさも、その結果の原因を探るときの苦々しい感情も、よく伝わってきました。失敗にめげるのは簡単ですが、それを乗り越えるのは並大抵ではありません。しかし、それを乗り越えて初めて見ることができる「景色」もあります。次の競技会ではぜひ、困難を克服した自分自身がいる「景色」を見てください!