第8回オンキヨー点字作文コンクール 国内部門
本年度は70編の応募があり、作家の藤本義一さんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)
最優秀オーツキ賞 正賞20万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
成人の部
優秀賞 正賞10万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
学生の部
優秀賞 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞(小・中学生対象) 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
 
選評 「明日(あした)への約束」

作家 藤本義一氏 
最優秀オーツキ賞「マイナス1点の教え」の作者、竹内さんは現在、盲学校で非常勤講師をされているが、高校3年の時に早々に書き上げ、満点だと思っていたら、99点で返された答案を巡っての先生との対話が軸になっている。失明して盲学校の小学3年生に編入した時に初めて点字に触れ、最初は読み書きできるようになるとは思っていなかった点字に、生来の負けん気で特訓に取り組み自信がつく。そこで先生からメの字が多い(訂正が多い)と指摘されて99点となる。答案は他人に読んでもらうものだから、急いで書くだけでは駄目だと指摘され、この一言で文字というものは書くのは第二義で、読ますのが第一義だと気付く。特に後半で久し振り、実に久し振りに会ったその先生との会話の部分が楽しく、人間同士の交流が語られているのがうれしい。
次いで優秀賞「音で描く想(おも)い、つながる想い」の久保さんの作品には、人間の失意とそのそこから甦(よみがえ)ってくる人間の地力、基本力とも言える絵画への人間の復活力が音の世界から生まれて力強く久保さんの中に生まれてくる。木々の葉の揺れ、独特の色彩、点描が……、指先から生まれてくる。音の絵を描きたい願望が迫る。
佳作の「思いがけない点字(?)の手紙」の藤井さんの作品には、生活そのものがゆったりと描かれ、今年3月まで通っていた幼稚園の園長としての人生が、豊かに書かれている。人を独自の感覚で把(とら)え、未来に夢を託す人生が名誉牧師のすべてを語っている。守井さんの「見えないからこそ見えるもの」には若さとの戦いがある。この若さの中に日ごとに逞(たくま)しさが宿っていく点が爽快(そうかい)である。年齢が息づく開発への途上が感じられる。
学生の部では、渡邊さんの「沈黙の春」が現実を見事に映しだしている。墨字と点字との方向性を作者は短い文章で描く。合併症で弱視になるまで、本に囲まれていたかった渡邊さんが、ゆっくりとでも点字の世界に入って行く姿は美しい。佳作の成田さんの「響くぞ」には微笑が浮かぶ。特別賞の「僕の思う点字生活」に音声で場所を教えるナビゲーターの夢を工藤君は書き、川原さんは脳との対戦に挑んでいて楽しい。
 
入賞おめでとうございます
オンキヨー株式会社 名誉会長
  大朏 直人(おおつき なおと)
本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。
最優秀オーツキ賞 「マイナス1点の教え」 竹内昌彦さん
最優秀オーツキ賞、受賞おめでとうございます。高校生の時の試験結果がなぜか1点減点されていた理由を先生に聞いてみると「訂正が多いから」というものだった。普通であれば文句が言いたくなるところを竹内さんは「君ならできる」という先生からのメッセージと素直に受け止め人生までも変えていかれました。
教員になられても当時のことを思い出し、生徒を人間として育てようという姿勢を持ち続けられたことは本当にすばらしいことだと感じました。ご定年が近くなり恩師と再会された際のエピソードからも竹内さんそして恩師の方のお人柄が伝わってきて微笑ましくなりました。すばらしい作品をありがとうございました。
成人の部
優秀賞 「音で描く想い、繋がる想い」 久保博揮さん
失明したために大好きだった絵を描くことができなくなった落胆、失望から、点字との出会いにより生きる意欲が湧き出てたこと。そして点字で英語を勉強したいという目標を持ちそのために訪れたカナダで、偶然耳にしたピアノ弾き語り演奏が音楽との出会いとなり絵を描くことに代わる新たな自己表現の手段となった。本作品ではそういった人生のいわば転機がダイナミックに描かれています。
またピアノの響きを夕焼けの色など景色にたとえるフレーズはすばらしく、まさに久保さんの表現の豊かさが伝わってきます。これからも音楽を通じて人々にいろいろな想いを伝え、活き活きとした人生を送られることを願っております。
佳作 「思いがけない点字(?)の手紙」  藤井健児さん
名誉牧師の藤井さんの作品は、とてもユニークな文体で、作者自身の人生経験ゆたかな人となりを想像させてくれます。まるでドラマのように、もうひとりの登場人物である「彼女」M・Fさんとの運命的な出会いや、その後の展開が綴られていて、そのリズム感の心地よさのせいか、読み終えてからも二度ほどつづけて読みかえしてしまったぐらいです。そういった藤井さんのゆたかな感性に触れたからこそ、M・Fさんも大きなインパクトを受けて、「苦心の傑作」を送りとど届けてくれたのでしょう。本作品をなんどか読みかえした後、人との偶然の出会いについてあらためて、その大切さを思い出させていただきました。藤井さんとM・Fさん、そして周りの人々との心あたたまる交流がいつまでもつづき、いつの日か藤井さんの「願い」がかなうことを、私も心から願っております。素晴らしい作品をありがとうございました。
佳作 「見えないからこそ見えるもの」  守井清吾さん
「見えないってつらくないですか?」・・・・・。守井さんの作品は、そんな言葉からはじまる。それに対し、「つらい事もたくさんありますけど、今は見えなくて良かったと思いますよ」とこたえる守井さん。そして、<私は本当に見えなくてよかったと思っている>とも。そのような境地に達するまでに、大変なご苦労や、さまざまな葛藤があったことだろうと思います。この作品でも、作者は多くの人との交流や、あたたかさに支えられながら夢をかなえることの大切さを教わっていきます。そして、小さなチャレンジが大きな自信へつながり、それが周りの人をしあわせにするエネルギーにも変化されていく・・・・・。人生をとても豊かにしてくれる、そんな教訓を力強く伝えてくれています。守井さん。あなたのこれからの夢の道のりは、けっしてなめらかな道だけではないかもしれません。けれど、それらはすべて、あなたのエネルギーにつながると信じています。本コンクールの入選が、守井さんの夢をさらに膨らませてくれますように。
学生の部
優秀賞 「沈黙の春」 渡邊みさとさん
この作品からは墨字と点字のどちらを選択するかに悩む心情が痛いほど伝わってきました。「漢字中毒」と周りから言われるほど好きな「読む」ということを取り上げられたにもかかわらず、想像の世界を広げ、新しい味わい方を見出すその強さに心を打たれました。好きなものを取り上げられ選択を迫られたときの葛藤や苦悩はとてつもなく大きなものだったでしょう。しかし、両方を選択するという結論からは、「読む」ということが大好きな渡邊さんの素直な気持ちがうかがえます。そんな素直な気持ちがあれば必ず希望の春が訪れるでしょう。高校生という多感な時期に真剣に悩み、葛藤したということは今後の人生においても大きな財産となるはずです。これからも「読む」ということに楽しみを持ち続け、もっともっと新しい味わい方を見つけていただけることを期待しています。
佳作 「響くぞ」 成田由香里さん
この作品を読んで成田さんが今を楽しんで生きているということが伝わってきました。みんなからの拍手で三味線が楽しくなった成田さん。それは三味線に対して悔し泣きをするくらい真摯に取り組んだことが演奏に現れ、みんなの心に鳴り響いたからだと思います。満次先生という目標となる先生と出会うことができて非常にうらやましく思います。また、自ら目標を立て、それを乗り越えていこうとする文面からは、ひとつずつステップアップして生きていこういう成田さんの意欲を感じ、楽しんで高校生活を過ごしているのだなとその姿が想像することができました。これからもみんなの心に、そして自分自身の目標に向かって響き続けてください。
特別賞 「僕の思う点字生活」 工藤友貴さん
「もっとこうなったらいいのに」「もっと点字が多くなったら楽しくなるのに」そんな風に前向きに物事を捉えられる工藤さんはとても感性が豊かで強い人なのだろうな、と読んでいて思いました。そんな前向きな工藤さんの人となりがよく伝わってくる作品だと思います。そして、工藤さんの作品からは、「こうしたい」という強い思いを感じました。点字のカラオケや点字新聞を作って、自分やみんなを楽しくしたいと思う気持ちをこれからも大切にしてください。そして、科学者になりたいという夢をかなえてくださいね。工藤さんが科学者になる頃に少しでも楽しいものが増やせるよう私たちもがんばります。
特別賞 「夢への第一歩」 川原樹さん
「中学生になったら、点字を勉強しようよ。点字を使ったら文章も早く読めるようになると思うし、これから勉強もやりやすくなると思うよ」・・・・・。そういった、お母様の優しい言葉に勇気づけられながらも、いくばくかの不安を抱えて、絶え間のない努力で点字をマスターしていく川原さんの姿に心を強く打たれました。「50音を一カ月で覚える」、「よりスムーズに読めるようになる」、「右手と左手をうまく使ってもっと速く読めるようになる」と、川原さんはご自分に次から次へと目標を設定して、修練を続けていきます。川原さんの「夢」に書かれているように、点字を修練するきっかけをつくってくれたお母様への恩返し、親孝行をしたいという強い思いが、ひとつひとつの目標の達成につながったのでしょうね。これからの人生でたくさんの勉強をして、たくさんの知識や気づきを手に入れてください。このコンクールの入賞が川原さんの夢へのステップになることを願っています。