真のS/Nとは
SN比という言葉をご存知でしょうか。
SはSignal、NはNoiseの頭文字で、詳しい方ならば音楽信号とノイズの割合を表し、オーディオの性能を示す言葉としてご存知ではないかと思われます。
しかし、SN比の計測方法をご存知の方はどのくらいおられるでしょうか。
アンプのSN比は、何も入力していない状態でアンプ自体から発生しているノイズレベルを計測し、そのアンプが出力することができるレベルに対する比を表します。
つまりこの場合、「音楽をかけずにアンプ自体から出ているノイズ」だけをノイズとして扱うわけですが、実際にはそれ以外にも音質を阻害するノイズは多数存在し、音楽再生時にはそれらのノイズが音質に対し大きく影響していることがわかっています。
よってアナログ時代に制定されたこの「SN比」は、アンプの基本性能は表せても実際の音楽に悪影響を与えるノイズの多寡を的確に表す値ではないのです。

ONKYOは実際の音楽に真摯に向き合い、計測には表れないが実際の音楽に悪影響を与えるノイズの実態を調査、研究し続け、真のSN比向上、つまりダイナミックに変化し続ける音楽信号を余分なノイズで汚させないように除去する方法を追究してきました。

その結果、開発されたのが動的なノイズ(音楽が鳴り始めてから発生するノイズ)超低減回路「DIDRC:Dynamic Intermodulation Distortion Reduction Circuitry」です。
M-5000R DIDRC回路
デジタル音源は、なかったはずの波形が再生されてしまう
最近のオーディオアンプは大体低域は10Hzくらいから高域は50〜100kHzまでくらいの帯域を再生します。これは人間の耳に聴こえる範囲よりも少し広い範囲です。しかし実際は50〜100kHzまでで高域の増幅能力がなくなっているわけではなく、数100〜1MHzくらいまではまだ充分に増幅できる力を有しています。 ただ、従来のアンプではこの帯域の歪は凄まじいものでした。
なぜならば数100kHzの音声は人間の耳には聴こえないので、歪んでいようがいまいが関係ないと考えられていたためです。さらにCDのようなデジタル音声フォーマットでは元々の音源に含まれている音声が20kHzあたりで切られているため、それ以上の帯域には音が含まれていないはずでした。
しかし、デジタル音源を再生する場合、実際は本来なかったはずの帯域が新たに発生していることが知られるようになったのです。

CDなどのデジタル音源を再生する場合、デジタル化されたデータをもう一度アナログに変換するときに8倍(又は16倍)のオーバーサンプリングをします。
この際、元になった音声と同じ波形がいくつも(元の帯域の8倍、16倍、24倍…)の高周波帯域に発生するのです。
従来のアンプではこの帯域を再生することは当然ながら考慮されておらず、結果的に激しく歪んでしまっていました。
ただしそのままでは耳に聴こえない範囲の音なので音楽再生に影響はないはずだったのですが、これが聴こえるノイズになってしまうことが明らかになったのです。
高帯域に発生する、なかったはずの波形
聴こえないはずのノイズが聴こえてしまうメカニズム
一般に人間の耳の可聴帯域は20Hz〜20kHzと言われています。
この帯域の外の音は「超音波」や「高周波」、「電波」などに代表されるように、そのままでは聴こえません。しかし、聴こえる場合があるのです。
ラジオの例を挙げてみましょう。
ラジオ放送はご存知の通り電波で送られてきます。勿論この時点での音が聞こえるはずはありませんが、チューナーで受信すると聴こえるようになります。最も単純なラジオでは、ダイオードを1個だけ使うことによって受信した電波から音声に変換しています。
これはダイオードが電流を1方向にしか流さない、という特性を利用したものです。実は通常のオーディオアンプでもこれと良く似たことが起こっているのです。
 
図1はAMラジオの波形です。丸で囲んだ図のような細かい波(1MHz付近)に振幅を持たせることによって大きな波を作っています。
この状態では超音波が振幅を持っているだけの状態なので当然音は聞こえません。
図1 AMラジオの搬送波スペクトラム
図2は、図1の波形をダイオードに通したところです。
下半分の波形が切れ、平均値である青色の波が耳に聴こえる音として出てきます。
図2 検波後の波形
図3は1000kHzと1020kHzの信号を同時に鳴らした時の波形です。
図1と同じように波形の上下が対称になっており、これも人間の耳では聴こえません。

しかしこの信号がアンプ(従来通りの、超高域での歪みが大きいもの)を通ると、歪んでしまい図4のようになってしまいます。
波形の上下が非対称になり、その平均値である青いラインの部分が耳に聴こえる音、つまりノイズとなって現れます。

図3のような現象は波長が近い音が同時に鳴っている場合に常に発生しますので、音楽を再生する場合、図4のようなノイズは頻繁に発生していると言えます。
これがデジタル時代における可聴帯域外からのノイズの実態です。
図3 信号の合成波
図4 検波後の波形
少量のノイズが名演を壊す
例えば2種類のチェロを聴き比べると音の高さが同じであっても響きが全く異なっているのを体感された方も多いのではないでしょうか。
しかし信号を測ってみると基本波の部分ではそれほどの差はありません。実は高域の高調波の違いによって、響きが異なってくるのです。
つまりこの微小な波形による美しい調和が乱れると、世界に名だたる名機による好演が、普及機による普通の演奏に聴こえるくらい変容してしまいかねないのです。
(下図はヴィンテージのものと入門機のチェロ2本における高域の波形を比較したものです)
Antonio Cassini
入門機
音楽の躍動感や実在感までリアルに再現する新技術
ONKYOは生のアーティストのノリや感情を阻害することなく伝えること、即ち「原音質」を設計理念としています。その考えに基づき開発されたのが新回路「DIDRC」です。
DIDRCはMHz(メガヘルツ)帯までの圧倒的な広帯域再生と、1μ秒(100万分の1秒)の瞬間に最高1000Vにまで達する反応速度を併せ持った画期的な回路です。
 
右の図は1000kHzと1001kHzを同時に鳴らして合成した波形を4種類のオペアンプおよびDIDRCに通して耳に聴こえる範囲内に発生する歪みを比較したものです。
1kHzを起点に、2kHz、4kHz…と複次的に歪が発生しているのがはっきりと確認できます。
これらのオペアンプは音が良いことで当社でも採用実績のあるものや市場でも評価が高いものですが、これらと比較してもDIDRCは圧倒的な低ノイズ性能であることが分かります。DIDRCの場合は-140dB以下の歪みで収まっており、これは人間が知覚できる限界値(およそ-120dB)よりも遥かに低い値です。
この回路により可聴帯域外に波形があってもそれが歪まず聴こえるようにならないため、音楽を阻害せず、演奏のニュアンスを細部の細部までありありと再現できるようになりました。またこの回路をモジュール化することにより、様々な機器に適用できるようにし、音の入り口から出口までを同じ設計思想でつなぐことが出来るようにしています。

今までにない音楽の躍動感、実在感、またそれにより惹きだされる深遠な音楽の魅力をご堪能下さい。