音の「空間」を体感する。 和楽器に学んだ桐ヘッドホン。

様々な素材を試し、構造を検証。突き詰めていくほどに、従来の発想が通用しないことがわかってきました。新しい考え方を取り入れなければ。試行錯誤をする中で発見したのは、日本の伝統でした。

日本古来の和楽器。その素材が、構造が、技法が、音を澄みわたらせるのです。中でも、箏や琵琶に用いられる桐に注目しました。桐は多孔質で音の濁りが少なく、倍音までもきれいに響かせる素材。優れた特性ですが、逆に、響きすぎるという難点にもなります。その桐を、ヘッドホンに用いる。非常識とも言える発想が実現への道でした。

桐の中にも、ヘッドホンに最適な、最高の素材を求めました。高級和楽器に使用される、福島県会津地方産の桐。外国産と比べ、会津の厳しい冬を越える桐は、年輪が詰まって、粘り強く、美しく育ちます。

「斎藤桐材店」という老舗桐材店を訪ねました。木材を仕入れ、販売するだけでなく、自ら苗木の段階から育て上げる。そして、伐採した良質の桐を、じっくり乾燥させ、自然の力であく抜きを行い、さらに熟成させ、数年の時間をかけて、美しく歪まない逸品へと仕上げる。しかし、老舗が、大切な桐を、ヘッドホンに使用したいという依頼に応えてくれるだろうか。

不安を抱いて訪ねた時、返事は「おもしろそうですね。是非やりたい」。桐材店にとっても、桐の可能性を引き出す、心躍る挑戦でした。

桐材を使って製作したのは、ハウジングと呼ばれる筐体部分。そのドーム形状の中で、音を響かせるものです。どれだけ木をなめらかに彫り上げても、ハウジング内の音の反射は不均一になります。その乱れた反射をコントロールするため、和楽器の技法を取り入れました。「彫り」と呼ばれる、和楽器の内側に様々な模様を彫り込み、響きをコントロールする技法です。

どの彫りが桐のハウジングにふさわしいか。その検証は、Onkyoの技術者たちが、自ら桐に彫りを入れることで行いました。もちろん、彫りの経験などありません。何度も失敗を重ねながら、ついに「綾杉彫り」と呼ばれる、和楽器の筝に用いられている技法にたどり着きました。これによって音の響きが均一になり、濁りが消えました。

しかし、すぐに次の課題が立ちはだかりました。桐は柔らかい木です。その木に彫りを施せる加工業者がいませんでした。できるわけがない、と門前払いをくらったこともあります。とある楽器メーカーだけが、できると言ってくれました。その出会いがなければ、このプロジェクトは頓挫していたことでしょう。





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