阪井   本日はたくさんのディスクをご持参いただきありがとうございます。全部拝見したら、夜中になってしまいますね。
佐藤   映画に音楽、私の好きなもの大体持ってきました。自宅でも見始めると夜明けまで観てしまうこともあります。
阪井   では、まずは映画のお話からお伺いしたいと思いますが、どのようなものがお好きですか?
佐藤   新しいものも観ますが、子供のころに感銘を受けたものが今でも新鮮に残っています。今日は「風と共に去りぬ」を持参しましたが、「ウエストサイド・ストーリー」、「十戒」や「ベンハー」も強く印象にあります。
阪井   それでは、この画面サイズ(140インチ)でご覧ください。
---「風と共に去りぬ」を視聴して頂きました。 
佐藤   先日、テアトル銀座でも観てきましたが、この当時の映画は実写ですから、映像の厚みや迫力が違いますね。生きている人間を使って撮る映画はやはりすごいですね。しかし、DVDの映像はきれいだし、楽しめますね。私もつい一年前にDVDを買いました。それまではレーザーディスクを使っていましたが、DVDは全般的にサイズも小さく操作性がよく使いやすいですね。
阪井   では、本日は盛りだくさんですので、どんどん行かせてもらいます。つぎに用意して頂いているのは、どのようなものですか?
佐藤   歌舞伎のDVDを持ってきました。歌舞伎にもよく行きますが、とても楽しみにしています。これは坂東玉三郎の舞踊「京鹿子娘道成寺」です。
阪井   道成寺ですか。実は私、和歌山の出身で道成寺に行ったことがあります。そこで、和尚さんから絵巻物でこの物語の説明を受けたのを思い出しました。
---「京鹿子娘道成寺」を視聴して頂きました。
佐藤   DVDですと、近くから撮影しているので目の動きがよくわかりますね。そして、音でも足での拍子の取り方などがよくわかります。やはり大画面でみると微細な動きがよくわかります。
阪井   それでは、いよいよ音楽の話に入っていきたいと思います。どのようなものをご用意頂きましたか。
佐藤   クラシックのオムニバス形式のDVDですが、その中でチェリストのジャクリーヌ・デュ・プレの演奏をご覧ください。かなり昔の映像ですが指揮者はダニエル・バレンボイムです。とても心打つ演奏です。
---「クラシックビデオライブラリー」からエルガー作曲のチェロ協奏曲を視聴していただきました
阪井   彼女については1999年に「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」というタイトルで映画にもなっていますね。難病にかかり早く亡くなりましたが、世界を代表する天才チェリストでした。
徐々に核心に近づいてきました。それでは、佐藤さん自身の話をお願いいたします 。
佐藤   ご存知のように1959年、9歳のときにソ連邦文化省の招きでソ連に渡りモスクワ国立音楽院付属音楽校に入学、そして1971年同音楽院を卒業いたしました。この間、多くの先生の下で学びましたが、そうした中で一人の先生がDVDに出ております。イワン・コズロフスキー先生、1900年生まれです。3年間教えていただきましたが、私が17〜18歳、先生は70歳くらいでした。今から50年前以上前の録音だと思います。
---「ボリショイ黄金期の芸術家たち」からチャイコフスキーの「イブゲーニ・オネーギン」を視聴していただきました。
阪井   佐藤さんというとヴァイオリンのイメージが強いのですが、声楽の世界でもご活躍されていましたね。
佐藤   オペラは総合芸術ですし、言葉に興味があったのでヴァイオリンと声楽を平行して勉強していた時期が長くありました。当時のコーガン先生からは「あなたの特長は、素晴らしい色彩感だ。」と言われたことがありました。ヴァイオリンや声楽だけでなく、オーケストラ、バレエ、オペラ、さらに美術やいろいろなジャンルの芸術に触れることによって、感受性や表現の幅、色彩感覚が豊かになると教えられました。そういえば、日本をたつ前に斉藤秀雄先生や山田耕作先生にも同じようなことを言われました。そして、日本のよいところを忘れないようにと、いろいろな所へ連れて行って頂きました。
---佐藤陽子さんのCD「ロシアの愛を歌う」から試聴していただきました
阪井   本当に美しくて艶のある歌を聞かせていただきました。ロシア語は難しいと思いますが、ご苦労されましたか。
佐藤   歌うためには、歌のもつ意味や背景を深く理解することがとても大事ですし、そのためには「生きた言葉」が必要となりますので、ロシア語とイタリア語は猛勉強しました。本当はドイツ語やフランス語ももっと勉強したかったのですが、こちらは完璧というとこまではいきませんでした。
阪井   そうですか。それでは、もう少しソ連芸術の中で、感銘を受けたものを紹介ください。
佐藤   ボリショイといえば、もうひとつはバレーでしょう。それでは、アダン作曲の「ジゼル」で踊る、ガリーナ・ウラノワをご覧ください。
---「ボリショイ黄金期の芸術家たち」から「ジゼル」を視聴して頂きました。
阪井   この当時のウラノワって50歳近いのに。とても若くていきいきしていますね。
佐藤   ロシアバレエの至宝といわれるだけあって、素晴らしい表現力です。一流アーティストであればどなたでも、ここ一番の見せ場では結構説得力があるのですが、ウラノワさんのクラスになりますと、もう登場しただけで、踊る前から、仕草や表情が若い役柄になりきっているのですね。そういう自然さが超一流の奥深さなのでしょう。声楽もバレエも以前は比較的早い時期に現役を引退される方が多かったと思います。しかし、プリセツカヤの時代になると現役が長かったですね。最近は現役の長い人が増えています。医学の進歩や栄養に関する知識が豊富になっていますし、トレーニングも全身を鍛えてきていますので、寿命が延びているのだと思います。
阪井   まだまだ持参いただいたディスクを見たいのですが、そろそろ時間が来てしまいました。本日は本当にありがとうございました。



シアタールームにお入りになったときから気になっていた、ヴァイオリンケースの中を見せていただきました。4億円という値段をお伺いしてまずビックリしたのですが、中の名器“グァルネリ 1742年作”は佐藤さんの手に渡るまでの歴史やドラマを想像せずにはいられないくらい存在感のあるもので、見ているだけで少し緊張しました。生演奏をお聴きするチャンスがなかったのが残念でなりません。

記 : 阪井千恵美(右)


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