■国内の部 佳作 「きらめく瞳に会いたくて」 熊本県山鹿市 坂本高広(54) |
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「ハラダケイタ君」、「ハイ!」「スズキハルナさん」、「ハーイ!」 今日も、教室は元気な子供たちの声で弾んでいる。みんなきらきらした瞳で…。そして、好奇心いっぱいの視線を私に降り注いでくる。あれから、もう何年が過ぎただろうか。 私の視力が急激に落ちはじめ、失意のどん底にあり、職場で悩み、家庭で悩み、ついには物が食べられなくなってしまった。何もする気が起こらず、何も考えたくない。ストレス症候群である。そんな時ふと、私の耳に何かが聞こえてきた。娘の音読をしている声であった。耳をすましてみると、言葉の端々に点字とか、ルイ・ブライユとか聞こえてきた。不思議な気持ちで娘に聞いてみた。それは国語の教科書の「手と心で読む」という単元であった。 私はそれを聞いた時、 『そうだ! 私には手も心も残っている! すべてをなくしたわけじゃないんだ!』 私はあやうく、心まで失うところであった。 『そうだ! 点字に挑戦してみよう!』 そんな思いが体の底からふつふつとわき上がってきた。 それから私は、すがるような気持ちで、来る日も来る日も点字の本に向かった。しかし、現実はそう甘いものではなかった。時にはくじけそうになり、時には自分を励ましなから、何とか点字を読めるようになった。やり遂げたという達成感で胸がいっぱいになった。 その頃になると、私も何とか立ち直りかけていた。そんな時、1本の電話がかかってきた。娘の学校からだった。子供たちの前で視覚障害者のことや点字のことについて話をしてほしいという。少しとまどったが思い切って引き受けることにした。 いよいよ、その当日がやってきた。『子供たちの前でちゃんとしゃべれるだろうか』『子供たちにうまく説明できるだろうか』 そんな不安な気持ちを抱えたまま懐かしい母校の門をくぐった。それから先は、ただただ夢中でしゃべっていたような記憶しかない。ただ一つだけ覚えているのは、教室に入ったとたん、子供たちの元気な声と、全身につきささるような強烈な視線を感じたことである。私はこの子供たちの瞳は、満天の星のごとく、きらきら輝いているに違いない! そう心の中で思った。 それから私は、その瞳の虜になり、現在に至るまで、幾度となくいくつもの学校に通っているのである。しかしながら、一度として満足に話せたことがない。毎回反省することばかりである。 これは、ある学校での出来事である。いつものように障害者全体のこと、そして視覚障害者のことについて話を進めていった。次の時間は子供たちがもっとも喜んでくれる点字の勉強である。基礎知識を学んだ後、実際に打たせる。最初は「め打ち」をさせながら、六つの点の位置を覚えさせてから50音に入り、締めくくりとして自分の名前を書かせる。「ハイ、合格! よく書けました」などと言いながら…。 ところが、終わりに近づいた頃、一人の少女が持ってきた。間違っていた。どこが間違っているかを指摘し、もう一度書いてくるように言った。少女はまた同じ間違いをしてきた。私はたいして気にも留めず、「ほら、ここが違うでしょ!点字は裏から打つから、読むほうを見て打っては駄目ですよ」と言って、もう一度書いてくるように指示した。他の子供たちは次々合格していく。少女は少し困ったように席に帰っていった(これは後で、気づくのだが)。 そして、今度は半分が正解で、半分が間違っていた。その時、初めてはっと気づかされた。もしかすると、この少女は少し理解力に欠けているのかもしれない…。もしそうなら、私は何てうかつだったんだろう。自分のことばかりに気を取られていて、その少女への配慮に欠けていたのである。私は心の中で「ごめんね」「ごめんね」と繰り返しながら、少女の手を取り、ひとつひとつ教えていった。少女は小さな声で「ありがとう…、ございました…」と言った。その声は心なしか潤んでいるように聞こえた。 そして、少女はついに合格したのである。私は大きな声で「おめでとう、合格です!とてもきれいに書けていますよ」と言った。その時、教室のどこからともなく拍手が起こった。少女はとてもうれしそうだった。教室をあとにする時、少女は何度も「ありがとう、ありがとう」と言ってくれた。私は声にこそ出なかったが、「こちらこそ、ありがとう!」と、精いっぱいの笑顔を少女に送った。 後日、みんなから点字の手紙が来た。もちろん、あの少女からも来ていた。 「てんじはむずかしかったけど、たのしかったです またがっこうにきてください」 と、たどたどしい点字で書いてあった。私は思わず頬を緩めた。 障害を持つ者は、人の行為に甘えることに慣れすぎて、つい人を思いやる気持ちを忘れがちになってはいないだろうか? 私は大切なものを気づかせてくれたあの少女に感謝しながら、これからもいくつもの学校に行くことだろう。 あのきらきらした瞳に会いたくて…。 |