■ 国内の部 佳作 「夜と昼の架け橋」 宮城県・伊藤慎哉(いとう しんや)(18歳) (宮城県立盲学校高等部普通科3年) |
僕は生まれつき視覚に障害を持つ高校生です。小学校時代は普通校へ通っていましたが、先生や親の考えで盲学校に転入することになりました。僕の人生はまだ他律的でした。 僕が点字の学習を始めたのは昨年4月のことです。弱視の僕はそれまで点字についてほとんど知りませんでしたが、多くの先生方のサポートで少しずつ指で読めるようになりました。見えにくさとたくさんの漢字とに悩まされて、これまで「目で読む」ことを怠ってきた僕にとって、それはもう一つの世界への扉でした。点字教材は僕に合わせて先生が作って下さるので、いつも楽しみながら勉強しています。最近では歌の歌詞を音楽に合わせて読めるほどに上達しました。今後は点字の歌詞を読みながらカラオケで歌ったり、全盲の友達に点字の歌詞カードを作ってあげられるようになりたいです。盲学校御用達カラオケボックスができたら、などと夢想します。 僕は墨字と点字の両方が自由に使えるようになりたいと思っています。「夜の文字」とも呼ばれる点字は、その名のとおり全くの暗闇でも指で文字が読めるのです。夜間、電気もつけずに本を読むのはもちろん、布団の中に入れた点字本を読むことだってできるのですから消灯時間なんて関係ありません。それは限られたごくわずかな人間だけに与えられた特殊技能と言っても過言ではないでしょう。 ドイツの詩人ゲーテは「光を、もっと光を!」と言ったそうですが、僕たちは光がいらない、もしくはほんの少しの光で暮らせるのです。弱視として生まれた僕は、小さな光を紡いでこの目で見える色んなものを今後も見続けたいです。しかし今後、病気の進行などですべての光を失わないとは限りません。だからこそ点字を勉強しているのです。点字の世界に触れたことが、自分の現在と将来を見つめるためのきっかけになったのです。 世の中では他人への中傷や差別、虐待にいじめ、テロといった、さまざまな問題があります。なぜこのようなことが起きるのか? 平和とは何なのでしょうか…。 僕が盲学校に来てはや7年がたちました。僕は盲学校が大好きです。ほとんど休んだことがありません。盲学校には普通校に負けないくらいの良さがあるのです。幅広い年代の人がいて、色んな見え方の人が交じり合いながら、助け合って学校生活を送っています。沖縄の言葉では「ゆいまーる」というこの「助け合い」が、盲学校の平和を作っています。 漢文の授業で読んだ陶淵明の『桃花源記』では、子供と老人がともに幸せであることが理想郷の象徴であると学びました。小学生から僕の祖母の年の方までが一緒に集うこの盲学校は、まるで「桃源郷」が地上に実現したかのようです。 僕は楽譜が読めないので暗譜でピアノを弾きます。文化祭ではモーツァルトのメヌエットを弾きました。バッハの『平均律クラヴィーア曲集』を聴いた時は素敵だなぁ、と思いました。ドイツ語の原題は「よく整えられた…」という意味だそうです。「バラバラでなくよく整って調和すること」がとても心地良いのは、音の世界でも人間の世界でも同じなんだと思います。 先日読んだ点字の教材に、こんな文章がありました。 「誰かがこれをやらねばならぬ、期待の人が俺たちならば…」 アニメ『宇宙船艦ヤマト』の主題歌です。男のロマンを歌い上げるこのフレーズは、僕に対するメッセージのようにも感じます。点字と墨字は夜と昼の世界、つまり互いに異文化と言えるでしょう。僕はこの異文化の橋渡しができるようになりたいです。二つの世界を自由に行き来することで、晴眼者と視覚障害者との間の交流もスムースになりますし、僕自身の視野もきっと広がります。夜の文字を駆使して、僕は昼の文字との間の架け橋になりたいです。 点字を読むことについてはかなり慣れてきたので、次は点字入力の番です。僕はパソコン操作で墨字の入力も多少できますが、それこそブラインドタッチで打てるようになればいいなぁと思います。最近始めた学習はパソコンで点字の六点入力を行う操作です。これができれば、入力した電子データから点字を打ち出すだけでなく、メールに添付して送ることも可能です。 好きな本を探す時はこれまで点字図書館からテープやCDを借りたりしていましたが、インターネット上で読める文学作品の電子データがあることを最近教わりました。音声読み上げソフトを使えば、いつでもどこでも自由に読めるはずです。これからは、点字図書館がインターネット化していく時代ではないでしょうか。ネット検索も情報の授業で教わったので、読書の楽しみがもっと広がりそうです。 夜の文字と昼の文字に掛かる橋、この橋を自由に行き来できるようになる時、両方の世界に光が差してくることが期待されます。僕は、そんな「期待の人」の一人になりたいのです。僕の人生は、今ゆっくりと自律的なものへ変わろうとしています。 |