海外の部 EBU地域 ジュニア・グループ 佳作
「親愛なる点字さま」
スペイン  サラ・セロウティ・オルギン(19歳・女性)
 私たちは歴史家プルタルコスが書いた本を読みました。私には、プルタルコスと神秘崇拝との関係が、私たちの関係にとても似ているように思えてなりません。
 プルタルコスは、デルフィの神託により、アポロンを崇拝していました。私もある神秘崇拝に参加していますが、これはあなたを崇拝するものです。その、普通の白い紙と同じく白くパリッとしていて、羊皮紙のように固い紙の上に手を置くと、私は不安でいっぱいになりました。
 プルタルコスにも同じことが起こったに違いありません。プルタルコスは香やろうそくの香りを感じました。自分が油や薬で満たされたアンフォラに囲まれているのに気づき、そして、巨大なアポロン像を見たとき、彼は混乱し、神殿から伝わる神の愛に圧倒されたはずです。
 私は測り知れない海のような点の集まりに触れました。あなたの秘密を解き明かそうとし始めたときに、私は全ての学問のしるしを知ることになるだろうと、尼僧は約束してくれました。あなたがあまりにも近寄りがたく思えたので、私は、あなたに魅了され、あなたから逃れられないのだと思います。
 プルタルコスをアポロンの神秘にひきつけたものが、私たちをいかなる神秘的存在の前にもひざまずかせるのです。謎は沈黙し続け、その真実はその沈黙の影に隠れています。私はあなたに語らせ、あなたのベールを脱がせようとしました。
 今考えると、そんなに早く、あなたを知りたいと思ったのはおかしなことでした。プルタルコスは4歳の時、私と同じような冒険心を持っていたのでしょうか。あなたを解読したいという思いは私をいら立たせ、私の決心は強まりました。先生に「まず母音の読み書きから始めましょう」と言われたとき、私は真の幸福感に満たされました。あなたへの崇拝に導かれることになったからです。でも、あなたは、知識を求める全ての人々は、冷静さと忍耐という薬を飲まねばならないことを教えてくれました。
 私の幸福感は焦燥感に変わりました。私には、その絡み合った点の組み合わせの中のどれが母音なのかわかりませんでした。私は失望感で圧倒されそうになりました。いったい私は、さっきあんなに魅力的に見えたアルファベットを自分の手で再現することができるのでしょうか。
 アポロンは将来を予言する能力を持っていましたが、あなたにも同じ能力があります。あなたは私の疑問に答えてくれたからです。そう、私は再現することができるでしょう。クラスの友人たちは、描画でノートのページを埋め尽くすことができました。その描画は彼らにとって、文字を表すものです。プルタルコスはある種の油を他と区別することができました。彼は何百もの祈りを覚えていましたし、デルフィで、最も重要な女性預言者に会うこともできました。
 いったん、あなたのアルファベットに指先で触れると、それは既にあなたの神殿の敷居をまたいだのと同じことになるので、そうなると、突然退席して、あなたの気を損ねるわけにはいきません。
 あなたの存在を知らずに生きることは確かに魅惑的です。けれども、あなたは私にもう一つの薬を飲ませました。努力という名の薬です。あなたは、全てに役立つ教訓を与えてくれました。また、労苦せず、すぐに達成できることは全て、美しいものではなく、長続きもしないことを確信させてくれました。人生はダンスよりも闘いに似ている。この教訓もしっかり胸に刻みました。
 あなたは、この厳しいけれども必要な理論の正当性を私に証明するための手助けをしてくれました。おかしなことですが、私の人生において重要で、私が大きな感謝と深い尊敬の念を抱いている人は皆、あなたへの崇拝に導かれています。あなたは、母と私の間の大いなる絆であり、あなたのおかげで、私たちは以前よりもずっと深く結びつけられました。あなたについて学びながら、心が沈んだとき、母は私よりも大きな努力をしました。彼女自身があなたを解読しなければならなかっただけでなく、私があなたを解読するのを手伝わなければならかったからです。
 努力という名の薬をたくさん飲んで、やっと私はあなたを知ることができました。けれども、まだ完全に知り得たわけではありません。私たちの関係は、互恵的な献身に基づいたものです。あなたは私に知識を与えてくれ、私は努力を与えました。しかし、あなたが私の手に握らせてくれたものに報いることは決してできないでしょう。現在も、またこれからも永遠に、あなたへの借りを返すことができないことは承知しています。もうこれで全ての記号が網羅されたのかと思うと、必ず、またさらに多くの記号が出てきます。あなたには、アラビア文字やギリシア文字、さらに音符さえあるのです。
 あなたが私にどれだけ多くのことを与えてくれるのかを、完全に把握しているのかどうかは、よくわかりません。しかし、本を読むと、少しわかってきます。あなたのおかげで、私は読み書きができ、目的を示す動詞の中に示唆されている全てのことを行えるのです。読むことによって、私たちは完全なものとなり、そしておそらく、書くことによって、私たちはより正確になるのでしょう。
 アポロンと同じく、あなたには、創造主があなたを作った日を記念する天体歴があります。創造主とは、あなたの神殿の最高の王で点の建築家であるあのフランス人です。コンピューターのロボットのような声を聞くのはとても実際的で、読書の助けになります。しかし、読むという行為がもたらす親密性を私に与えてくれたのは、あなたです。晴眼者は、言葉の言外の意味を味わうことができますが、あなたはそれを手でさわれるものにしてくれます。あなたは、私の手に一遍の詩を持たせ、その不滅の言葉を吸収させてくれます。詩が終わるたびごとに、私の指先は動きを止め、今読んだばかりの知恵をしみこませようとします。私はあなたの美しさに打ちのめされます。あなたは六つの点から構成されていて、その点は神様につながっています。それは偶然でしょうか。
 ざらざらしているように思えるかもしれませんが、あなたの肌触りは完璧です。パンをゆでるとひびが入ります。それはパン焼き職人の技能からすれば過ちかもしれませんが、そういうパンは食欲をそそります。イチジクの実は熟すと口を開きますが、これもなぜか食欲を刺激します。あなたも同じです。あなたはざらざらしてもいなく、柔らかくもありませんが、それゆえ、神を冒涜(ぼうとく)するものでさえ、あなたを解読する必要性を感じるのです。彼らは、あなたの解読システムが醸し出す安心感から抜け出すことができないのです。
 最近、あなたが消えてしまうのではないかと言う人が多くなっています。いずれ消滅して、忘れ去られるだろうと言うのです。でも、そんなことは起こらないでしょう。起こったとしたら、それは神への冒涜だからです。あなたは、何千もの人々の知識への扉であり、鍵です。だからこそ、あなたは私たちを見放さないはずです。私たちはこれからもあなたについて学びつづけ、あなたはあなたの司祭たちの助けを借りて、私たちが必要とする知識をこれからも創造し続けるでしょう。プルタルコスが受けた神託は、それから何世紀もたった今でもなお生きており、あなたのように厳然と存在しているのです。
 私の愛する友人、点字さま、つらつらと書き連ねてきましたが、あなたへの賞賛によって、この手紙を締めくくります。確かに私はコンピューターを使います。でもこれは裏切りではありません。ホーマーが言ったように、翼で言葉に触れるためには、あなたが必要だからです。あなたのバッテリーは決して消耗しませんし、あなたは故障することもないからです。あなたの点は星座のように見えます。空で互いにつながって文字を描く星のようです。これらの星のおかげで、私は、言葉に伴われて知識の空を飛びまわります。言葉は矢のように人を傷つけますが、優しくその傷を癒し、教えを与えてくれるものでもあります。