海外の部 EBU地域 シニア・グループ 佳作
「キャリア、そして魔法の鍵としての点字」
スイス  スザンヌ・クンツ(67歳・女性)
 私は8歳の時に、スイスのフリブールにあるゾンネンベルク盲学校に入学し、最初から点字を習いました。学校の教科書はすべて点字本でした。当時は、私のような重度視覚障害者用の視覚補助具はまだほとんどありませんでした。私は、すぐに縮約形も同じようにマスターしました。そのころから、私は本が大好きでした。まさに手当りしだいに本を手にしました。就寝時間が早く、その後はおしゃべりせず消灯する決まりでしたが、本をベッドに持ち込んでいました。ふとんの中なら、何時間でも邪魔されることなく本を読めました。こうして、長い夜も幸せに過ごし、特にアメリカインディアンの冒険ものがお気に入りでした。ただ、読むものがなくなって困りました。学校が休みになると、あっという間にすべての本を読んでしまって退屈だと文句を言う私に、両親はほとほとお手上げ状態でした。そんな状況は、強力な拡大鏡を入手でき、印刷された本も読めるようになって、改善しました。私は、知識欲が旺盛で何でも知りたがる、本が何よりも好きな子供でした。
 寄宿舎学校を卒業し、見習い期間を経て、私は点字教師の道を選び、訓練を受けて21歳で教え始めました。生徒は若い人から大人まで、再訓練や職業訓練を受けるための施設で40年教えました。定年退職後も、非常勤講師として、週に数回、または週の半分ほどのペースで教え続けています。これまでのキャリアの中で、点字機器の技術開発をじかに体験し、共有し、バーサブレイルのような、最初の電子機器を積極的に試してきました。点字ディスプレーのついた初めてのコンピュータを知り、一生懸命習得し、使いこなせるようになりました。私は、始めからこのような技術革新は大歓迎です。
 私のように、わずかに視力は残っていますが重度の聴力障害もある場合、これらのおかげで、世界への扉が開き、知識や情報を得られ、周囲とのコミュニケーションもとれるのです。コンピューターや点字ディスプレーなどの機器のおかげで、電話をしたり、メッセージを読んだり、ネットサーフィンや、Eメールのやりとりもできるようになりました。モバイルコンピューターに、点字機器とスタンダードなキーボードがあれば、会議や対談にも参加でき、医師やセラピストとの会話や、銀行や電車内などで、視聴覚障害のための指点字のアルファベットを知らない、または使えない人たちとのやりとりができます。このように、点字は私の仕事になっただけではなく、あらゆることへの扉を開ける、魔法の鍵なのです。
 これまで、私は点字の教師として、数えきれないくらい多くの人たちに、標準点字と縮約形を教えてきました。その体験から、点字の学び方、さらに点字を習得する際に生徒たちがどのような困難や課題に直面するのかがわかりました。多くの生徒たちが、点字と出会えた喜びを感じ、触覚を辛抱強くへこたれずに訓練し、読むスピードを上げ自信を持てるように、何度でも繰り返し指導してきました。以前の私の生徒で、その後点字教師になって教えている人が何人もいます。
 しかし悲しいことに、今、点字の重要性が失われつつあります。オーディオブックやコンピューターなどの機器による音声読み上げが著しく増え、点字が減ってきているのです。重度視覚障害者や全盲者のかなりの割合の人たちが、点字をあきらめ、聴覚による機器のみに依存するようになるのは、点字のマイナス面です。確かに、点字習得には膨大な時間と多くの練習、かなりの努力が必要ですから、やりたくないと思う人が多いです。ですが、私の使命として強く思うのは、ルイ・ブライル氏の素晴らしい発明が失われてしまうことのないよう、点字への関心と利用を広め続けていくことです。私にとっては、点字以外の選択肢はありません、というのは、他の人には便利で使いやすいかもしれないオーディオブックや音声読み上げを、私は使えないからです。私は完全に点字と点字ディスプレーに頼っています。かつて、拡大鏡や画面読み上げ機能を使ってみたこともありました。ですが、すぐに疲れてしまううえに、首や肩の筋肉が凝ってしまいます。何より、点字のほうがはるかに早く、楽に読むことができます。目の見える人が印刷された本を読むのと同じくらいの早さで読めると思います。全盲又は重度視覚障害者の方で、いろいろ選択できるとしても、完全に点字を使うのをやめたいとは思っていないでしょう。本を自分の手に持ち、メールを自分で読み、コンピューターに入力した文章を自分の指でチェックし推敲したいと思うはずです。点字教師の役目は、素晴らしい技術革新の成果に加えて、点字を伝え、より魅力的で興味が持てる点字学習法を改良し、日常生活での点字の活用を勧め続けることです。
 私にとって、点字は生活と切り離せないくらい、無くてはならないものです。そして、点字は世界中で使われているので、国際的なコミュニケーションの手段です。世界中の人と点字の手紙でやりとりができます。外国語の本も点字で読むことができます。私は、イングランドの点字図書館もよく利用していて、イギリス文学作品をオリジナルの英語で読めることはとても幸せです。ドイツ語圏だけでなく、英語やフラン語圏の点字図書館からも本を取り寄せられることで、あらゆるジャンルの本の選択肢が格段に広がります。技術の進歩で、あらゆる種類の本や文書の点字変換が、以前よりもずっと簡単にできるようになりました。
 最後に、ルイ・ブライユ氏の誕生からは200年以上がたちましたが、彼の偉大な発明に、改めて感謝と敬意を表します。点字がなかったら、数えきれないほど多くの全盲および重度視覚障害者にとって、文学や科学を知り、教育を受ける機会が制限、又は全くなかったかもしれないのです。私たちは、この素晴らしい文化財が失われてしまうことがないよう、精いっぱい努めなければいけないのです。