海外の部 ABU地域 最優秀オーツキ賞
「日常の代用でなく、日常のつながりを作る――ソーシャルメディアの利用方法」
スリランカ  R.S.N. カルナラトゥネ(46歳・女性)

 人間は、好もうと好むまいと、遺伝的に社会性があり他者とつながりたいという気持ちを本来持っているものです。長い年月の間、他者との相互のやりとりが人間の日常生活の基盤でした。他者とのやりとりには、言語によるコミュニケーションと言語を用いないコミュニケーションとがありますが、視覚障害者にとっては、ボディーランゲージやアイコンタクトのような言語を用いないしぐさは理解するのが困難です。それでも、視覚障害者も同じ人間として、他者と触れ合いたいという社会的な要求を持っており、孤立を好みません。
 最近は、面と向き合っての対話という昔からの手段に加えて、新しいやりとりの手段が出てきました。中でも、ソーシャルメディア(ウィキペディアでは「バーチャルコミュニティーやネットワーク内の情報、アイデア、写真またはビデオを人々が作成したり、共有したり、交換したりすることが許されるコンピューターを介した道具」と定義)は最も利用されている手段です。晴眼者であろうと視覚障害者であろうと、誰もが同じようにこのようなサイトを利用してお互いに連絡をとり合ったり、意見を述べたりしています。世界中で約20億人の人が実際にソーシャルメディアを利用していると言われています。バーチャルオンラインによるコミュニケーションの主な利点は、コストも時間も効率がよいということです。さらに、物理的な距離はまったく関係なく、他者と新たにつながったり、旧来のつながりを維持したりすることができます。そして、ウェブサイトへのアクセスが徐々に広がり、視覚障害者もオンライン上で他者とやりとりができるようになりました。
ソーシャルメディアで広く使われている視覚に基づくコミュニケーションより、言語と音が主なコミュニケーション方法であるオーディオ・ブームのようなサイトが、視覚障害者の間ではよく使われています。ソーシャルメディアを通じていつでも誰とでもすぐにやりとりすることができるので、ソーシャルメディアを利用している人は誰でも健全な社会生活を営んでいると思われがちです。
 では、ソーシャルメディアは本当に利用者の間に強い結びつきを生み出しているのでしょうか。調査によると、ソーシャルメディアは、私たちの社会の土台となっていた隣近所や地域の結びつきを弱体化させているとしています。視覚障害者にとって、地域の強い結びつきは生存に関わる重大な要素です。視覚障害者がどれほど自立を望んでいるとしても、地域の人々の手助けや支えにはいつも感謝しています。オンラインによる結びつきよりも、現実の生の結びつきの方がより重要なのです。
 一見、バーチャルコミュニティーで多くの人間関係を築くことができるように思われますが、その結びつきの質には大きな違いがあります。笑顔を見せたり、抱きしめたり、ただ手を握ったりするだけでも、現実の生の触れ合いからどれだけ温かみを感じるかは誰もが知っています。オンラインでは、そのような触れ合いから受け取るさまざまな感情は湧き上がってきません。声のトーンから伝わってくる優しさ、目の輝きに見える喜び、優しい手触りに感じる愛情が他者との結びつきを強めます。それこそが人間なのです。こうしたことがなければ、実際の社会生活を送ることのないただのロボットにすぎなくなってしまいます。
 さらに、ソーシャルメディアは、利用者の社会心理的機能にマイナスの影響を及ぼすという証拠があります。多くの弊害の中でも、依存症、うつ病、脱抑制は深刻な問題です。ソーシャルメディアに依存すると、社会生活が阻害されます。他の依存症と同様に、最初は毎日ログインして自分のプロフィールを更新したり、友達の投稿をチェックしたりするのが習慣になりますが、最終的には、始終やっていたいという抑えがたい欲望に駆られるようになります。オンラインに時間を割けば割くほど、現実生活で人と付き合う時間が少なくなります。
 うつ病も社会生活にマイナスの影響を及ぼします。ソーシャルメディア上では常にベストな自分を見せたい、自分がやったことを自慢したいと思うものです。ありのままの自分の写真を掲載したり、プロフィールにネガティブなことを書いたりすることはほとんどないでしょう。そうした見かけの情報にだまされてしまい、みんなは完璧で、いつも楽しい時間を過ごしているのだと思い込んで憂鬱な気持ちになってしまうのです。また、自分の投稿への「いいね!」やコメントの数が、自分がどれだけ他者に受け入れられているかを示すものだと思い込んで自尊心が左右されたりします。こうして自信を失うと徐々に社会から孤立していきます。脱抑制という概念は、現在はソーシャルメディアと関連付けて、何かを表現するときに抑制できないことを意味する語として用いられています。ソーシャルメディア上では、他人に対して無神経で無礼になったり、面と向き合って話すときには決して言わないようなことを言葉にする傾向があります。オンライン上のこうした言動は現実生活にも影響し、社会的に孤立してしまうこともあります。
 ソーシャルメディアには悪い点がたくさんありますが、良い点がないわけではありません。ソーシャルメディアを通じて友達の輪を広げることができ、生産的な社会生活を送ることができると言う人達がいます。さらに、内向的な人にとっては、実際に面と向き合う必要がないので、ソーシャルメディアの方が簡単に人間関係を築くことができます。ソーシャルメディアで嗜好(しこう)や興味が同じような人が集まって結びつき、仲間同士の連帯感をもつことができるということもあります。また、頻繁に会うことができない家族や友達とつながることができ、関係が深まるという点もあります。
 こうした賛否両論を考えると、ソーシャルメディアは、現実生活でのつながりの代用として使用した場合には、私たちの社会生活に有害だと結論づけることができます。ソーシャルメディアは、むしろ現実生活でのつながりを作る手段として使うべきです。そうすれば、私たちの社会生活も充実し、孤立することもないでしょう。いずれの道具もそうですが、ソーシャルメディアも適切に使用すれば有効な道具になるのです。