海外の部 WBU-NAC地域 最優秀オーツキ賞
「ルイの訪問」
アメリカ  ジェリー・グレン・マッキー (45歳・男性)

 歴史上の人物が自分を訪ねてきて一日二日を一緒に過ごす、そんな夢が叶(かな)うとしたら、私はルイ・ブライユを指名するでしょう。「なぜルイ・ブライユなのか」とあなたは尋ねるかもしれません。答えはとても簡単です。彼の貢献がいかに世界に影響を与えたか、そしてそれ以上に一人の人間として、私個人がいかにその恩恵を受けているかをブライユ本人に伝えたいからです。ブライユの偉大な発明である点字なくしては、自立という点で自分がどんな人生を送っていたかはほとんど想像できません。
 軽く挨拶(あいさつ)を交わした後、ブライユはこう言うかもしれません。「私が生きていたのはもうずいぶん前ですが、私の発明がどのように世界を変えたのですか。あなたご自身はどうお使いになっていますか。ぜひとも教えていただきたい!」
 私はこう答えるでしょう。「おやおやルイさん、一日やそこらしかないんですから。では私がどう点字を使っているかをお見せしましょう。それであなたの発明がいかに重要であるかということがおわかりいただけると思います」
 まず毎朝響き渡る音で起こしてくれる点字腕時計をブライユに見せます。続いて、毎日、妻と私が神と交わる場である点字聖書。そしてキッチンへ。朝食作りに使うのはたくさんの点字付きの道具です。ターキーベーコンは点字の略語表記付きのタッチパネル式レンジに。オーブンの点字タイマーをセットしてスコーンを焼き、オートミールを点字計量カップで量ってコンロの鍋に注ぎ入れます。
 朝食が終われば仕事の時間です。向かうのはイーエイチ・ジェントリー施設。そこで私は視覚障害者のためのケース・マネジャーとして視覚障害を持つ大人をサポートし、私の妻は視覚障害者コミュニケーション部でテクニカルアシスタントとして点字を教えています。私のオフィスに向かう途中の廊下では、それぞれのドアの横に点字で部屋の目的が表示されています。オフィスに着くと、40マスの更新式ディスプレイやエンボス加工機、ダックスベリー社の点字点訳ソフトといったオフィスオートメーションなどを見せます。ミーティングでメモを取る時に使っている点字電子手帳もあります。さらに、生徒のファイルにつける点字ラベル作成機や私の名前と電話番号、Eメールアドレスを記した点字の名刺作成機など、他にもいろいろな仕事道具を紹介しましょう。iPhone4Sを差し出してブライユにスクリーンに手を置いてもらい、そこで点字アプリを起動したら彼は心底驚くことでしょう。このアプリでは、彼が創案した点の組み合わせを使って点字を入力することができるのです。入力した文はパソコンや携帯電話にメールで送ることができます。
 といっても、すべての点字製品がハイテクで高価なわけではないのだと彼に説明して、点字板と専用ペンを見せて、それを使えばいつでもどこでも点字が書けることを知ってもらいます。そして、少し足を伸ばして妻が教えている教室まで一緒に行ってもらいます。
 教室では、生徒たちがパーキンス式点字タイプライターと、点字板と点字ペンの両方を使って点字の書き方を学んでいます。読み方も短縮形と標準形の両方を勉強します。妻と私は二人ともアラバマ盲学校の小学校で点字を学び、それ以来35年間点字を使い続けているという話をします。そして、妻が全米視覚障害者連合との共催による米国議会図書館の資格試験で35ページの点訳原稿で96点を取り、見事文芸点訳の資格を取得したことを誇らしげに説明しましょう。教室では、他にも点字の絵や視聴覚障害者用通信装置などここには書き切れないほど多くのものを見てもらいたいと思っています。
 仕事が終わったところで私はブライユに言います。「まだ一日は終わっていません」。その日が投票日であることを思い出し、投票所に立ち寄り妻と私が票を投じ市民としての義務を果たすところを見てもらいます。投票には、点字のキーパッドと音声機能を備えた特別な機械を使用しますが、これで障害者が自分で、また誰にも見られずに投票することができるのです。
 家では、点字を使った妻と私の楽しみを見せましょう。「図書館」と呼んでいる私たちの部屋へ行くと、点字で書かれたさまざまなテーマの本が並んでいます。そこからゲームが置いてある部屋へと移動し、点字トランプでゲームをし、それから点字モノポリーをします。
 こうしてあっと言う間に一日が過ぎ、ルイ・ブライユとの時間も終わりに近付きます。ブライユが行ってしまう前に、私たち三人は部屋に座り、今私が読んでいる本の一章を声に出して読みます。ロビン・リー・ハッチャーによる「羊飼いの声」です。そしてブライユに、「点字の世界をご案内できて楽しい一日になりました。ぜひ一、二年後にまた訪ねてきてください」と言いかけたところで考え直し、次回の訪問は10年後くらいにしてもらうことにしましょう。その頃には操作棒と点字ディスプレイを搭載した自動車でのドライブが可能になっているかもしれませんから。