海外の部 WBU-NAC地域 シニア・グループ 佳作
「暗闇の中の水玉と枕の下のチップマンクス」
アメリカ トレイシー・リン・ブライアント・バンディ (38歳・女性)
 「トレイシー、何をしているの?」と3歳になる姪のリザが聞きました。
 「本を読んでいるのよ」
 「どうして本の水玉を読んでいるの?」
 こんな会話をしたのは、私が小説を読みながら子守りをしていた、ある午後のことでした。そのとき私は高校生でした。姪のリザに、私はリザのように本の中の文字を読むことができないこと、私にとっては点が文字であって、指先でその点を読んでいることをわかりやすく説明しました。
 リザは説明を聞いて納得したようで、また遊び始めました。この話を聞いた私の家族は、点字が水玉に見えるとはなるほどもっともで、面白いと思ったようです。この呼び方が家族の中で定着し、家族は今でも点字を読むことを「水玉を読む」と言います。
 確かに私は、水玉こと点字を使って知識を得ています。私はこれまでずっと点字で読み、点字を通して豊かな知識を得てきました。学校へ通っている間はずっと点字の教科書を使いました。今はメモをとったり、レシピやかぎ針編みのパターンを読んだり、電話番号を書き留めたり、視覚障害児の教師として仕事の書類やフォルダーの保管場所を示すラベルを貼ったりする際にも、点字を使います。印刷物を点字に変換して、仕事に関連するプリントやメモ、資料からも知識を得ています。
 どの教師の心の中にも、抑えられない知識欲があるものと思います。私も幼いころからそうでした。そのためにちょっと困ったこともありました。
 祖母が「もう寝なさい」と言うときは、まさに文字通りのことを意味しています。ベッドカバーの下に点字の本をこっそりすべらせて、祖母が部屋を出て行ったら読むなどということなどは、まったく意味していません。そうしただけで、何回も祖母に怒鳴られました。あれこれ理由を付けては、祖母が私の寝室に戻ってきて、ベッドカバーの下にあるものを見つけるのです。そう、点字本です。でも、やめられないのです。その頃からずっと読書が大好きでした。ちょうど2年前、私は全米視覚障害者連合会主催の「点字読者(リーダー)はリーダーである」というコンテストで10000ページ以上を読みました。
 でも、水玉(点字)が知識を得る唯一の手段というわけではありません。私はオーディオ機器も愛用しています。
 あなたもシマリスのキャラクターのチップマンクスが好きでしょう? そうですよね、だぶん。でも、チップマンクスがオーディオ機器になったときには、厄介なことが起きるかもしれません。
 私が10歳の頃、祖母は州立の視覚障害者用図書館に登録をしてくれました。ワクワクしながら点字書籍と録音書籍を借りました。どちらもあかりは必要ありません。すぐに録音書籍は、読む速度がとても遅いと感じました。再生速度を上げると、もっとたくさん本が読めると思ったのでやってみました。どんな本でも、通常の速さの2倍で聞き取れるように、何度も練習しました。家族には、その音がまるでチップマンクスの声のように聞こえたようです。
 カセットプレーヤーを持っていると、「またトレイシーとチップマンクスね」と言われました。今も録音書籍を聞くときは速度を上げるので、やっぱりチップマンクスです。大学時代に寄宿舎で一緒だった友人たちにも、なぜ私の本はチップマンクスのように聞こえるのか、とよく聞かれました。「この速さで教科書を聞くのが好きなの」と答えると、友人たちは笑いました。退屈な読み物でも私ならさっと読めるので、きっとうらやましいと思うこともあったのだろうと思います。
 でも、枕の下にチップマンクスを置くとまた困ったことが起きます。点字の本を持って寝室に行くのはだめだという祖母ですから、寝室で枕の下にボリュームを落としたカセットプレーヤーを隠すことも、当然だめです。そう、やっぱり見つかってしまって、2、3日、プレーヤーを使わせてもらえませんでした。でも、無理なのです。知識への欲求がそれほど強いのです。
 今でも、知識を得るためにカセットプレーヤーやほかのオーディオ機器を使っています。しゃべる時計、しゃべる温度計、しゃべる万歩計、しゃべる定規、しゃべる血圧計から、ビクターリーダーストリーム、ウィンドウズ版のJAWS、iPhone、デジタル録音図書などの最新機器まで、いろいろ持っています。母と祖母に言わせれば「トレイシーの家にあるものは何でもしゃべる」そうです。まあ、ほとんどその通りですけれど。
 知識とは理解すること! それは力! それはなくてはならないもの! 私たち視覚障害者は、目から知識を得る幸運には恵まれていないので、その代わりに指と耳に頼っています。点字とオーディオ機器のおかげで、まったく公平とはいかなくとも、少なくとも点字とオーディオ機器がない場合と比べると、より公平な機会があります。だから、私の財布はまるでスーツケースみたいと誰かに言われても、「そうなの」とにっこり笑って応じられます。
 それは、スーツケースサイズの財布の中には、知識を得るための道具であるネットブックパソコンや点字ディスプレー、iPhone、ブルーツースキーボード、ビクターリーダーストリームなどが入っているからです。だから、何かほしい知識があれば、私はいつだってそれをつかまえる準備ができているのです!