海外の部 WBU-NAC地域 最優秀オーツキ賞
「点字でつながって」
アメリカ アンジェラ・オーランド (38歳・女性)

 何の予兆もなく準備する間もなく突然のことでした。私のDNAの中に恐ろしい病気が潜んでいたことも、病気になったら私の身体がどうなってしまうのかも、私は何も知りませんでした。その月の初め、私は6カ月の息子と自由で幸せな暮らしを満喫していました。でもその月の終わりまでには、遺伝子の時限爆弾が爆発していました。私の心は役に立たなくなった身体に閉じ込められてしまいました。味わった苦しみは例えようもありませんでしたが、それでも正気を失うまいと必死で踏みとどまりました。
 視力も聴力も完全に失い、両手、両足は麻痺して、人生のどん底でした。歩くこともできず、何の感覚もありません。赤ん坊の世話はおろか、自分の世話さえままなりませんでした。
 一番つらかったのは情報にアクセスできないことでした。身の回りのことも、世界で起こっていることもわかりません。スポーツも文化も経済も政治も、そして戦争も続いていました。「それでも人生は続く」と言うけれど、私は人生について何も知りませんでした。他の人が私に知らせようとすることしか知ることができず、かろうじて生きていたのです。指先で私の顔に文字をなぞるようなコミュニケーションでは、どうしようもありません。家族は私に語りかけ続けるのに疲れ果てていました。
 あれこれ想像することで自分を慰めようとしました。大好きな映画を見ているつもりになったり、古い歌の歌詞を思い出そうとしたり、自分のために本を朗読したりして、果てしなく続く時間を、月日を過ごしました。私は孤立して、孤独で、そして惨めでした。完全に失った外の世界との関わりを、何としてでも取り戻したいと思いました。
 長かった8カ月が過ぎ、手が回復し始めたのがわかりました。指に正常な感覚が戻るまでにはさらに3カ月を要しました。何をしなければならないかはすぐにわかりました。点字を習わなければ。
 私も職業リハビリテーション制度の網からこぼれ落ちた一人でした。私の障害が重過ぎて手の施しようがないからと、何のサポートも訓練も受けられませんでした。点字を習いたいなら自分でやるしかなかったのです。
 夫がオンラインで点字の教科書を買ってくれました。自宅ではたいした助けもなく、文字通り独学です。教科書にそってじっくりと丁寧に勉強しました。新しい文字を1字学ぶと、練習問題の単語と文に取り組みました。1ヶ月後には縮約形を使わない点字(1級点字)を読めるようになり、次のレベルに進むことにしました。
 縮約形を使った点字(2級点字)の学習書シリーズは長くて難しく、規則が多くて覚えることがたくさんありました。短縮語、略語、接頭語と接尾語の省略形点字を覚えるのにとても苦労しました。勉強したことの復習と新しいスキルの学習。来る日も来る日も勉強しました。3カ月後にはとてもゆっくりですが縮約形点字が読めるまでになったのです。 そんなに速く点字を習得するなんて不可能だと言われましたが、私はそれをやってのけたのです。実世界に戻りたいという私の決意はそれほどまでに固く、そして点字はそれを実現する唯一の手段でした。
 点字で読んだ最初の本は『ハリーポッターと賢者の石』です。辛抱強く点を感じていくうちに胸が躍りだしました。文字が単語になり、単語が文になり、そして物語になったのです。そう、私は読書していたのです!
 次のステップはニュースの配信元を見つけることでした。『盲ろう者のホットライン』を購読しました。これは、主要なニュース記事を点字で要約した週刊誌です。国立図書館からは『ニューヨークタイムズ・ウィークリー』と『ペアレンティングマガジン』を、他の配信元からは『ザ・リーダーズダイジェスト』と『シンジケーティッドコラムニスト・ウィークリー』を購読しました。雑誌を読んでいると人生に希望が戻って来ました。政治について夫と話したり、夫が聞いたことのない話について説明したりするのがとても嬉しかったのです。点字、このすばらしい点のおかげで、私はまた世の中とつながることができました。
 あれから10年経った今、点字スキル向上の訓練を受けて点字を読むのがずっと速くなりました。知りたいことが山ほどあるので、速く読めることは重要です。私は一日中ニュースと本を読んでいます。たとえ私が永遠に生きることができたとしても、終わらないほど読みたいものがたくさんあります。
 初めて点字ノート装置を購入して、これまで以上に情報とソーシャルネットワーキングにアクセスできるようになりました。家族にeメールを送り、視聴覚障害者のメーリングリストに参加し、同じような困難に立ち向かっている人々に出会うことができました。人生で初めてのウェブサーフィンを始めました。これほどたくさんの情報が、こんなに小さな所に入っているなんて想像もできませんでした。知っておかなければいけないことがたくさんありますが、それが今や私の指の先にあるのです。
 今では盲ろう者用の通信装置を持っているので、手話ができない人とも話すことができます。私の携帯電話にメッセージを入力してもらえれば、それを点字ノートで読むことができます。この装置でテレタイプ端末も操作できます。そして、ついに自力で電話をかけることができるようになりました。私が電話で初めて夕食のピザを注文した夜、息子と一緒にお祝いしました。これもまた点字のおかげです。
 私はテキストメッセージやインスタントメッセージ、フェイスブックを通じて人々と結びついています。昨今のテクノロジーの進歩には驚嘆するばかりです。更新式点字ディスプレイで読書するのは本当に楽しく、ボタンを押すだけで、点字が魔法のように姿を変えて、新しいことを語ってくれます。可能性は無限です。
 私は今も盲ろう者であり身体障害者です。しかし、私はもう自分の身体に捕われた囚人ではありません。点字が私を解放してくれました。今や私は生徒であり、物書きであり、指導者であり、友人でもあります。私のオンライン上のニックネームは「ドット(点)」です。私は再び社会の一員となりました。これは、点字なしでは叶わなかったことです。 点字があってよかったと思うのはどんなことですか、とよく聞かれます。答えは簡単。すべて。点字のおかげで、私はつながっていることができるのです。