海外の部 EBU地域 最優秀オーツキ賞
「誤った知らせ」
スペイン マリア・ヘスス・サンチェス・オリバー (61歳・女性)

 ルイ・ブライユの命日が近づいていました。例年同様、点筆は点字盤の隣で待機し、紙は正しくセットされていて、ブライユアルファベットを構成する六つの点が呼ばれました。感謝と敬意を表す言葉を考えなければなりません。点達は皆急いでいました。順番を待つ間、マスに腰かけたり押し合いへし合いしたりしているものもいました。そのうちの1点が「ご主人様」と書き始めようとしました。点筆が「D」を打ち終えたときに、1の点が、次の欄に移動して「e」を打つ手伝いを頼まないまま、点筆を少し強く押して床に落としてしまいました。
 「頭がおかしくなったのかい?今日は一体どうしたっていうんだ」
 点筆は怒りと困惑混じりに続けようとしましたが、あまりに強く打ち付けてしまったので、点字盤の端に転がったまま息が整うまでじっと待っていました。
 1の点の位置からは、点の分け目である66個の溝の上を点筆がはっているのは見えません。彼の目には、残りの点達がちょうどおさまるだけの空間しか映っていなかったのです。
 「みんなに悲しい知らせがある」と1の点は自分の心を落ち着かせながら静かに言いました。
 「でもみんな、帽子をしっかり持っていてくれ。気をしっかり持って」
 それを聞いて点達は震え始めました。嫌な予感がしたからです。
 「たった今聞いたんだ。僕達が芸術と文化の世界から消えてしまうということを。僕達が視覚障害者とその理解を照らすたった一つの光ではなくなってしまうということを。彼らはもはや僕らを必要としていない」 
 「どういう意味?彼らが僕達を必要としてないって?」
 点達はみんな1人残らず叫び出しました。
 「目が見えなかったら、どうやって文字を読むの?文字が書けなかったら、どうやって働くの?それに、いろんなことを学ばずに、彼らはどうやって生きていくんだい?」
 「本物の人間がする事なら何でもできる、人造人間を誰かが開発したらしい。そいつはJAWSと呼ばれているそうだ。そいつは僕らより早く読めて、僕らほど重くなく、僕らよりずっと場所を取らないんだ。それはつまり、僕らがただの役立たずになるって事さ。僕らは戸棚か博物館に詰め込まれてしまうだろう」
 彼はそこで口をつぐみました。死や腐敗を意味するようなその言葉を口にしたとたん、胸にこみあげてくるものがあり、ワッと泣き出したのです。絶望的なその言葉に、残りの者達もいっせいに泣き始めました。
 彼らが喪失感に陥りかけていたときに、6の点が駆け込んできました。彼はあまりに大量の汗をかいていたので今にも消えてしまいそうでした。彼は次のマスの端っこに腰かけるように上がって叫びました
 「どうかみんな黙って聞いてくれないか!」
 5人はギョッとして泣くのをやめて耳を傾けました。しばらくしゃくりあげながら。
 「君達は僕の兄弟かもしれないけど僕は恥ずかしいよ」
 彼は1の点をにらみつけて言いました。
 「君はいつも自分が23個の文字を作るのに使われると自慢するよね。そして君も」
 今度は2の点の方を向いて言いました。
 「君は15個の文字に使われるからね。そしてそこの君」
 次は3の点の目を見て言いました。
 「君は16個の文字に必要だ」
 次の攻撃相手は4の点でした。
 「君は、15個の文字を作るのに君が必要だからって、すごく自惚れが強いよね。そして君、5の点は、13個の文字を作るのに必要だ。でも今日、この最悪な知らせを聞いて…」
 怒号は続きました。
 「僕はつまらない者だけど、何が起きているか確認しようとしたんだ。君達はそんなこともしないで。僕はたった六つの文字にしか役立たないし、何かを消すのにも君達が必要で…。でも僕は、何が起きてるのかを確認しようとした。それなのに君達は何をしているんだ?ただ泣くばかりで。臆病者達め!」
 「すると君は、何が起きているのか、わかったっていうの?」
 頭を突き出しながら1の点が聞いた。
 「君はすっかり涙にくれているのだとばかり、思っていたよ!」
 「何がわかったの?」
 他の点達も聞きました。早く知りたかったのですが、6の点が自分の重要性を実感できるようにしてあげました。自分達がいなくてはアルファベットができないのをみんな知っていたからです。
 「えっと、機械の目を持ったJAWSという男がいて、その男はコンピュータと呼ばれる機械の画面に現れる情報を読めるんだ。視覚障害者はそれが気に入っているらしい。もちろん視覚障害者は、自分たちがこれまで必死で実現しようとしてきたことを全部放棄するつもりはないのだろうけど。正直言って僕は驚いてはいないんだ。つまり、コンピュータのおかげで、職業が何であれ、視覚障害者は目が見える人と同じようになれるからね。実際のところ僕はこう思うよ。コンピュータが印刷物に取って代わることで、結局、晴眼者と視覚障害者は対等の存在になるだろう。でもだからといって、僕達の居場所がなくなることにはならない。
 それどころかまったく逆で、最近ではいたる所で点字を見かけるよ。エレベーターのボタン、薬の容器、キャッシュディスペンサー…。コンピュータで点字が使えるようにするために特別な機能までも追加しなければいけなかったのさ。さあ、僕は「e」を書きに行ってくるよ。僕と一緒に行く?」
 点筆の目を覚ますために耳を持って振りました。点達は点字盤に戻ってみんなで次のように書いたのです。
 「ご主人様。あなたは安住できますよ。発明家は決して死にませんから。その発明品は永遠に続きます。読み書きのできない視覚障害者はいなくなるでしょう。なぜなら、たった1人でもブライユアルファベットを学ぶ必要性を感じれば、点字システムが博物館にお蔵入りになることはないでしょう。点字のおかげで、視覚障害者は目の見える人と同じように、メモを買いたり、計画を作ったり、さらには公の場で読み上げるスピーチでさえも、書いたりすることができるからです」