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プロがプロに聞く経営の話
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 「ニワトリ社員五百万人」を抱える鶏卵業界のトップ
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Guest   イセ食品(株)社長 伊勢俊太郎
Host オンキヨー会長 大朏直人

大朏直人(おおつき・なおと)氏

1941年東京生まれ、56歳。
65年3月、駒澤大学文学部卒。同年4月、ラジオ部品メーカーに入社後独立。電子機器製造の日本電通 を設立、社長に就任。85年、自動車部品メーカーの丸八工場(現在のテクノエイト)の再建を契機に、4社の再建に成功。93年6月に東芝傘下のオンキヨーを個人で買収、1年半で黒字経営に転換した。現在、12社の企業集団を率いる。

大朏会長

伊勢社長

伊勢俊太郎氏(いせ・しゅんたろう)氏

1955年生まれ。青山学院大学卒業後、伊藤忠入社。3年間のサラリーマン生活を経験。その後、祖父・多一郎が鶏卵の研究に着手し、父・信彦が大量 養鶏、関東進出、アメリカ進出とその世界を広げていった軌跡を受け継ぎ、イセファームへ平社員として入社。28歳でイセファームの社長に就任。その後、イセ食品の副社長として、鶏卵、鶏肉、冷凍・チルド食品などの食品メーカーを統括する。92年、イセグループの本体であるイセ株式会社の代表取締役に就任。さまざまな商品ラインアップで、卵市場の牽引役を果 たす。


物価の優等生、卵の業界で企業養鶏としてトップを走るイセグループ。富山の養鶏場を企業化した先代の後を継いだ二代目は、不況をバネに第二創業に向けてひた走る。

大朏 八○年代にアメリカに進出されて、向こうの農場を買われたとか。日本でアメリカの農場を買ったというケースは珍しいんですか?
伊勢 商社の方が牛や豚関連で農場を買われていますが、ほとんど失敗しています。二十年という長い間継続しているのも、鶏卵関係も、当社一社だけですね。
大朏 それで、ニワトリは何羽いらっしゃるの?
伊勢 卵を生む鳥で五百万羽います。国民一人当たりの消費量が、業務加工用も含めて年間で三百四十個ぐらいですから、需給バランスで見ると、一億二千万羽いればバランスが合う。ところが、日本全体で実際は一億五千万羽ぐらいいる。完全に供給過剰です。この状態が長年続き、卵が物価の優等生といわれるようになったわけです。
大朏 すると、大規模工場を持っているところが他にもあるんですか?
伊勢 いえ、国内で二番目の規模になると、うちの約半分です。昭和三十六年当時、養鶏家の数は国内に三百六十万軒ありましたが昭和五十六年には十六万軒、そして今は四千軒弱。企業としてやっているのは、三百軒程度です。庭先養鶏も一軒として数えれば、寡占化がだいぶ進んでいます。


相場の暴落で異端視されアメリカを目指す

大朏 卵が物価の優等生なのは、競争が激しいからでしょう?
伊勢 おっしゃる通りです。
大朏 すると、規模の拡大によって、勝ち抜こうとされるわけですか?
伊勢 規模は安易には増やせないんですよ。昭和三十年代後半に、アメリカから近代養鶏の技術やハイブリッド種が入ってきて、庭先養鶏から千、万単位 の企業養鶏への脱皮が進んだ。すると当然、生産過剰になって、相場が暴落してしまう。中小零細の農家が養鶏で生計を立てられないという問題が起こったり、昭和四十七年から、農水省の指導で生産調整が始まった。
大朏 その当時から、ダントツのスケールを誇っていらした。
伊勢 ええ。その時は、規模拡大の計画を実行しようとする最中でしたから、非難の矛先がわれわれに向かった。中小零細の養鶏家を苦しめているのは、大手のイセだといわれ、日本の養鶏家の中でイセは異端な存在になったんです。農水省からもさまざまな制裁を受け、農林系の金融機関との取引もできなくなった。以来、当社は国内で規模拡大ができなくなったわけです。新聞で叩かれたり、チラシをまかれたり、さんざんやられましたよ。そこで、現会長は行政指導も生産規制もないアメリカに進出したわけです。
大朏 その間に、卵の需要は相当増えましたよね。マヨネーズやケーキ類、外食産業も伸びたでしょう?
伊勢 ここ十年の、国民一人当たりの家庭での卵消費量は横ばいなんですが、業務加工用がグッと増え、以前は消費量 の一、二割だったものが、今や卵の総生産量の半分を占めています。
大朏 子供の頃、兄貴と一つの卵を分けた覚えがあります。卵には恨みがあるんです(笑)。
伊勢 そうした流れの中で、当社では五年ぐらい前から、親鳥の育成から一貫したインテグレーションに取り組んでいます。昔は、種鶏業者、孵化業者、育成業者あるいは問屋など、それぞれ独立でした。それを一貫して行うわけですから、コスト競争力はかなり高いです。
大朏 百万羽のニワトリがいる養鶏場を五軒もっているところと、イセさんの五百万羽では、利益率がまったく違うと言うわけですね。
伊勢 そうです。それから、もう一つのポイントが飼料代です。卵のコストの五割から六割が飼料ですから、ここの値段をどこまで安くできるかで、かなり差がでる。当社は圧倒的なスケールがありますから、よそよりもトン当たり一万円安いという状況で優位 性を保っています。ただ、相場のレベルがこのところ年々下がっている。
大朏 不況に直面している?
伊勢 ここ四十年ぐらいは年々生産力が増えて、その伸びをマーケットの拡大で補ってきましたが、今年初めて、マーケットがシュリンクしたんです。今は大変な時期ですね。業界企業のほとんどが赤字決算だと思いますよ。うちは五年前に、生み立て、作り立ての卵をお客様に提供するというコンセプトで、八十億の投資をして加工センターやチルドの流通 センターを建てた。今になってそれが奏功し、生産部門は赤字ですが、それをカバーして余りある状態ですね。
大朏 全体の売り上げ構成はどうなっているんですか?
伊勢 グループ全体で、国内の売り上げが三百六十億です。そのうち、加工関係が百二十億で、残りの二百四十億のうち百億が定価卵の売り上げです。
大朏 立派な数字ですね。やはり、業界に先駆けたインテグレーションが効いているんでしょうね。
伊勢 コスト競争は日本一だという自負はあります。でも、相場だけに頼っていてはダメだと痛感していますね。インテグレーションを価値訴求としていかにお客様に訴えるかが最大のテーマです。


鶏卵業界のビッグバンが訪れる

大朏 アメリカの場合、卵価の歴史はどうなっているんですか? 大朏会長
 
伊勢 アメリカでは、上位五十社でほぼ全体の八十数%の供給をしています。日本が三百数十社ですから、かなり寡占化ですね。日本は一人あたり年間三百四十個以上食べている一方で、アメリカは年間二百四十個です。アメリカの市場では、コレステロールと安全性の問題で、毎年、消費量 が落ちてきました。それがようやく、ここ三年ぐらいでおさまり、その間に弱い養鶏家の方々がほぼ淘汰され、安定した新しい時代を迎えている。日本がそうなるのは、あと五年か十年先でしょう。
 
大朏 アメリカ人は、食中毒を恐れて生卵を食べないそうですね。日本の卵は、感染する危険がないというのは本当ですか?
伊勢 1986年にアメリカ東部とヨーロッパで、卵に入ったサルモレラ菌による食中毒が猛威を振るったんです。その結果 、八六年から九十年までに、ヨーロッパ先進諸国の国民一人あたりの消費量 は約20%も落ち込みました。20%といえば、もう業界破壊につながる。当時、日本でまったく問題なかったのですが、ここ三〜四年、サルモレラによる食中毒が急増しています。実はO157による食中毒よりもサルモレラ菌による食中毒の方が多かったんですよ。
大朏 あれは、卵の中ではなくて、殻についているんでしょう。
伊勢
両方です。親鳥がサルモレラに犯されていた場合は、そのままひよこに移って、菌を持ったニワトリになります。昨年から、厚生省、農水省が業界団体に働きかけを始め、来年十一月には衛生法が改訂され、卵の取り扱いについての法制化が実施されます。
大朏 そうなると、価格のターニングポイントを迎えるかもしれませんね。変化には対応できるところと、できないところが、はっきり出るでしょうから。
伊勢 おっしゃる通りで、ここ一年で業界は大きく変貌すると思います。今年は、卵の相場から言えば最悪の年ですし、鶏卵業界は戦後初の大不況でしょう。と同時に、品質問題に関して規制がかかるわけですから、まさに鶏卵業界のビックバンが訪れると思いますね。
大朏 こういう不況下では、技術革新をうまくやれたところが、生き延びていきますね。たとえば携帯電話でも、いまのバイブレータにはモーターが入っているけれどマグネット方式でもっと安く、もっと振動が自由になれば、途端にモーターは売れなくなる。何百万個のモーターを作るラインが、ある日突然いらなくなる。となると、一番進んだ技術を研究しながら、かたや自己否定しなくちゃいけない。養鶏にしても、一般 企業の農業への参入が可能になって、ダイエーやイトーヨーカ堂が、自前でインテグレーションラインをつくることも考えられますよね。こうなると、彼らは強い。販売網があるから、生産量 を無駄なくコントロールできる。
伊勢 結局、売る所を持っている方が強いですよね。
大朏 だから、イセさんのところも、最終的に口に入るものも作る方向にいくんだと思うんです。その上で、原料はどこにも負けないし、管理もしっかりしている卵なんですよ、というアピールをしていく。消費者がイセさんの「森の卵」のファンになれば、スーパーがたとえ独自の卵を開発しても、「森の卵」を仕入れないわけにはいかないですから。やっぱり、いいものをつくるしかない、というわけですね。
伊勢 お陰さまで、販売店さんにはかわいがってもらっています。


親子の確執はまだまだありますね

大朏 年を経るごとに、親父との確執が深くなる場合と、そうでない場合とあるらしいけれど、伊勢さんはどちらのタイプです? 伊勢社長
 
伊勢 前者ですね(笑)。いまはバンバンやっていますよ。
 
大朏 いいじゃないの。もともと親子なんだし。憎しみあうことはありえないんだから。で、どんなことで揉めるんですか?
 
伊勢 あらためて聞かれるとわからないですね。ここ五、六年で販売の仕事に携わるようになるまでは、生産現場のイセファームの責任者でした。その頃は、会長がほとんどアメリカにいましたから、結構、好き勝手にやらせて頂けましたね。
大朏 親父とやっていることがぜんぜん違うから、いいんですよね。
伊勢 ええ。でも今は、販売という会社の根幹にかかわる大事な仕事をしているので、会長もどうしても口出したくなるらしく、いつもぶつかるんですよ。
大朏 親父は何でも口を出すもの。でも、そういう人がいるから助かるとも言える。
伊勢 そういうふうに、心底思えるように努力します。でも、まだまだ青いですね(笑)。
大朏 いやあ、青い息子も親父にとっては嬉しいものですよ。まったく親父と同じ人間だったら、つまらないでしょう。うちの息子だって、僕と同じだったらおもしろくないもの。プラスの魅力があればいいですよ。青いというのは可能性なんだから。でも、年々、親父と同じようになっているはずなんですよ。そうじゃないですか?
伊勢 いやあ、どうでしょう(笑)。
大朏 紙の裏表のようなもので、透いて見たらまったく同じとかね。
伊勢 そうかもしれませんね(笑)。


いい卵、それにとことんこだわりたい

大朏 それにしても、生き物を扱うのは気の休まらないお仕事でしょう?
伊勢 そうですね。一時たりとも休む暇なく、誰かが農場で生産活動に携わって下さるわけですから。農場に暮らした時、そこで働いているおじさんやおばさんと話しながら、「この方たちのお陰で出来ているんだ」と感謝の念がわいたものです。
大朏 火事や病気といった危険もあったんですか?
伊勢 すべて経験しました。ただ単に、投資コストを下げようと思えば、一つの籠にたくさんニワトリを詰め込めばコストは少なくて済みます。でも、生き物はそうはいかない。ある限度を越すと、生産性が極端に落ちるんです。
大朏 機械と違って、効率のいい投資やシステムを考えるのは大変ですよね。
伊勢 これからは、農外資本が参入するという可能性も大いにあるでしょう。そんな折りに大切なのは、お客様にいい卵をお届するために、三百六十五日、卵をつくることに真面 目に取り組む気持ちだと思っています。
大朏 その思いがなければ、お客様に通じないですよ。「うちには、ニワトリ社員が五百万人います」、という思いでやっていれば、買う方だって、あそこのニワトリはきっと満足していい卵を生んでいるだろう、と思いますから。
伊勢 「ニワトリ社員五百万人」は、いいキャッチコピーですね。


大朏会長&伊勢氏

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雑誌「企業家倶楽部」1999/1月号より転載。
本欄は(株)企業家ネットワーク様のご好意により実現したことを記し、謝意を表させていただきます。

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