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プロがプロに聞く経営の話
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 ジュニアデパートで、小売りに新風を吹き込む
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Guest   平和堂社長 夏原平和
Host オンキヨー会長 大朏直人

理延べ面積100,900平方メートル、売場面積30,800平方メートルという巨大なショッピングゼンターが、南彦根駅前に4月下旬オープン。映画館、アミューズメント、スポーツプラザなどを併設し、街のレジャーランドに仕立て上げた平和堂の夏原社長に、地域密着企業の戦略を聞く

ゲスト…夏原平和(なつはら・ひろかず)氏 -- 平和堂社長

1944年、滋賀県生まれ、51歳。68年3月、同志社大学法学部卒。同年4月、平和堂入社。 70年、取締役、75年、専務取締役、83年副社長に就任。89年より代表取締役杜長に就任、現在に至る。滋賀県内トップの大手スーパーとして、躍進中。売上高順位、全国31位。94年申告順位、全国14位。95年2月決算の売上高2,400億円。

聞き手…大朏直人(オンキヨー会長)



百貨店の良さをローカルで提供するのが役目

大朏 以前社長から「ジュニアデパート」という言葉を伺ったことがあるけれど、この「ビバシティ彦根」は「ジュニア」じゃないですねえ。滋賀県最大のショッピング・アミューズメントというキャッチフレーズ通り、素晴らしい。
夏原 今回の店舗作りでは、「本当のジュニアデパートとはどんなものなのか」をもう一度考え直そうということをテーマに挙げました。他の店もグレードアップしていますから、差別化がしづらくなっているんですね。
大朏 定義をもう一回決め直そうと。
夏原 ええ。買わなくても歩いているだけで楽しい。休憩所でお茶を飲みながら、またウィンドーショッピングをする。それで、「買わなくても今日はなにか楽しかったね」というのが、デパートの良さだろうと思うんです。そういう思いを表現するために、今回は柱回りや壁面などに色々なディスプレイをする場所を設けまして、マーチャンダイジンクと言っていますが、「母の日のプレゼント」や「今年のファッション」といったものを目で訴える場所を随分作ったんですね。そうすると、お客様は買い物が目的でなくてもうろうろ歩けるわけです。
大朏 徘徊しているかのようにね。
夏原
それが逆に「一回行っておかないと話題に遅れる」という話になりましてね。
大朏 そりゃ、これだけのものになったらそうでしょう。これじゃあ、彦根に進出したダイエーさんも大変だ。楽しさが違うんだもの。
夏原 これからの流通業は、どう差別化するかが問題です。とにかく安さに訴えるところと、もう一方で、買い物だって楽しさがいるんだという二つ方向がありますね。ダイエーさんの場合は安く売ることを鮮明にされてますから。うちは買い物されているお客様が、ニコニコされて、こちらも嬉しくなるような店にしたかった。
大朏 お客さんを見ていても、非常に穏やかな顔をしておられるという感じを受けました。みんな安物屋さんに行く時には目の色変えて、家を出てくる時からチェックしてますよ。今まで忘れてきたものを思い出させてくれる様な感じがしましたね。
夏原 やはり私たちは、百貨店の良さというのをローカルで提供するのが役目だと思うんです。そして、百貨店にはないもう一つの良さが複合化です。土地の高い所ではできないことも、ここなら余裕がありますから、プールやアミューズメントや映画といった施設を展開することもできます。駐車場は無料ですし、ホームセンターには日常的なものもちゃんとある。実は、この秋には「トイザ〃ら〃ス」もできるんです。
大朏 なるほど。お互いに集客するということですね。
夏原 もう一つ、社員に自信というか、プライドが出てきたことも大きいですね。家族や友人に「びっくりしたなあ、大きくてきれいな店で」と言われるでしよう。
 
大朏 そりゃ嬉しいですよ。「お前すごい会社勤めてるなあ」ってね。挨拶がてらお客さんも多いんじゃありませんか。
 
夏原 多分、全国から業者の人が見学に来ているでしょう。そうすると会社のイメージも上がりますし、社員のプライドも上がりますね。
大朏 レストラン関係が11時までというのは、近所の人は嬉しいと思いますよ。立派なデートスポットにもなりますしね。例えば六本木の一角を全部持ってきたような感じを出しておられるからでしょう。
夏原 今若い人達の間では、ここに来ることが「ビバる」という流行語になっているんです。「今日ビバろうか」といった具合に---こういうことは企画してもできるわけではないですから、自然に話題になるというのは非常に嬉しいことです。
大朏 周りに大きなピカピカのビルがあるわけじやないから、余計に目立つでしょうね。
夏原 残念ながら本部が邪魔になってきたんですよ。
大朏 こんな無粋なものはない方がいいと。
夏原 当初から心配をしていたんですが、本部を移すには、コンピューターラインも張っていますから随分費用がかかるんですよ。それで我慢をしたんですが、よく「本部がなかったらもっといいんですがね」と言われましてね。ですが、「こんな立派な建物だから高く売るのではないかと思いましたが、本部を見て安心しました」と、本部にお金をかけていないことで、その精神が分かるという人もおりまして。ホッとしました。


バイヤーのナマ情報が利益の源泉

大朏 「楽しい仕事をしておられるんだなあ」と思ってお店を拝見してきたんですが、油断なりませんよ。これだけ情報インフラができているわけですから、時代の流れにちょっとでも遅れたら大変。社長のところでは、何か特別なアンテナを張っているのですか。
 
夏原 今ファッションの移り変わりはものすごく早いですから、外部の情報源としてコンサルタントを入れる場合もありますが、バイヤーたちがいかにナマの情報を掴んでくるかというのが大事ですね。成績の上がっているバイヤーに聞くと「電車で通っているんです」と言うんです。「電車は情報の宝箱だ」と。その気になって見ればサンプルはいくらでもあるわけですから、そういう風に一生懸命情報を集めている社員はいい仕事をしますね。私は以前からそういう癖がついていまして、東京に出張すると銀座から丸ノ内辺りをうろうろするんです。
大朏 やはりそういう習慣が体に染みついているんですね。
夏原 小売業は「変化対応業」と言いますが、とくに変化のスピードが早いんです。例えば食品関係では、新製品の中で寿命が一年以上のものは20%しかない。あれだけ開発費と宣伝費をかけて80%は消えてしまうのですから、いくらメーカーさんに「これは売れますよ」と言われても、自分達の目で見て選択しないと売り場がいくらあっても足りません。トップ自身が絶えず変化を見つけようと気を張っていると、社員も勉強しないわけにはいかないから、それが会社のムードになっています。
大朏 どんな商売でも同じでしょうけれど、僕がいつも社員に言っているのは、いい仕入れ先があれば商売なんて簡単だと思うんです。結局、いい仕入れ先を持つということは、良い商品を一円でも安く、きちんと納期通り持ってきてくれるということですから。どれだけ仕入れに気を遣うかが勝負でしょうね。
夏原 うちもバイヤーが利益のもとですから、ここにはいい人材を入れて、教育をして、出張費もフリーであちこちから情報を持ってこさせます。ただ、メーカーの担当者に、ベテランを付けてもらえるのか、見習いの人しか付けてもらえないのかによって、情報は全然連います。仕入れ先といい関係であれば、いい人を付けていただける。そのいい関係とは何かと言うと、仕入れたものは返品しない、ちゃんと支払いをする、約束は守るといったことなんですね。返品率も随分下がって、2%くらいですが、やはりこれを何とかゼロにできないかと狙っているんです。
大朏 今売りだし中のコジマ電気さんも、仕入れ先を大事にしますよね。ものすごい勢いで伸びていて利益も高いというのは、やはりそういう背景があるのでしょうね。
夏原 うちの業界でも、お得意先と一切食事をしてはいけない、コーヒ−1杯でもだめだという厳格な会社もあるんです。でも、せっかく向こうの社長が誘ってくれるのに、「決まりですから食べれません」というのでは、コミュニケーションがはかれませんよね。うちは、限度を越えないお付き合いならいい、しかし限度は絶対に越すなよと言っている。この辺が難しいのですが、それを分かる人を育てて行かないと。
大朏 僕は賛成ですね。食事したり、飲んでいる時とはいえ「実はこの商品は秋に新製品が出ますよ」という情報が入るのと入らないのとじゃ大違いですからね。「あそこは堅い」ということだけが、必ずしも尊敬されるというわけではないんじゃないですかね。
夏原 とくに日本人の場合、お酒が入ると「ここだけの話」というのが出てきますから。
大朏 いや、アメリカでも同じですよ。「食事をしている時に仕事の話はしない」なんていうのは嘘ですよ。優秀な人ほど「こんな席でいいかなあ」と仕事の話をボンボンします。
夏原 まあ、仕事のできる人はそうですよね。
大朏 「あの人よりこの人の方が仕事ができる」というのは、そういう場で情報収集している結果なんでしょうからね。


子供の頃から、小売りにドップリ漬かっていた

大朏 ところで、子供時代はどんな生活をされていたんですか。商売のセンスは、その頃に培われたようにお見うけしますが。
夏原 家は百姓をしていたんですよ。父(会長)も商売が好きなんでしょうね、ひょんなことから商売の道に入りまして、靴屋からスタートして、ファッション、布団とどんどん広げていったんです。勉強するよりも面白いですから、私も中学の頃から、暇があると店を手伝ったり、大学の夏休みには中元売り場の責任者をやったり、仕入れに一緒に連れていってもらったこともありました。
 
大朏 迷わず小売りというものにドッブリ潰かっていたんですね。
 
夏原 そうなんです。会社に入る前から実践を見ていましたから。
大朏 でも、まだマーケティングなんて言葉もない時代に、お父上はよく「次は何が求められるか」ということを感じとっていらっしゃいましたね。
夏原 やはりそれが創業者の勘なんでしょうね。実は、滋賀県で初めてエスカレーターをつけたのもうちの店なんです。
大朏 おしゃれな店だったんですねえ、初めから。
夏原 お金がないから1階から2階に昇るだけですけどね。田舎ですから、みんな乗りに来るんです。「お金いくらですか」とか、靴を脱ぎかかる人とかいて、笑い話なんですよ。小学校の遠足では帰りにみんなで寄って、先生が「今日は一回だけですよ。もう一回乗りたい人はお母さんと一緒に来なさい」とPRをしてくれました。まさに時代を先取りしたわけですが、そういうセンスがうちの創業者にはありましたねえ。ですから、今回のビバシティにしても、思い切ってこの辺りの名物を作ってみようということになったんです。効率効率でやる創業者だったら私もとてもこんな投資はやらせてもらえなかったですしね。
大朏 僕なんかモノ作り屋だから、何でも効率から入るでしょう。ですから、こういう無駄はホッとします。事実、お客さんはみんな穏やかな顔をしている。例えば、滋賀県で最初のエスカレーターをつけるとか、そういう時代を読むセンスというのは、創業者の勘だと言ってしまえばそれまでですが、何なんでしょうか。年をとってからも多分衰えないものでしょう。
夏原 習慣になっているんでしょうね。高校の時から手伝い始めて、大学時代も休みにはやっていましたでしょ。それから、大学を卒業して一年間だけ東京で業界のコンサルタントのところにお世話になって、厳しさとか色々な情報とかを勉強して平和堂に入りました。それが2号店ができた年で、今全部で76店になったのですが、今でもどこの店のどこの売り場がどんなレイアウトになっているかは大体頭に入っていますよ。
 


今が全国区に出るターニングポイント 

大朏 関東の方では、平和堂というのが「ジュニアデパート」を標榜しているということを知る人は極めて少ない。それでいて、名古屋や大阪の人はよく知っている分、ものすごい落差を感じられると思うんですけれど、こういうことに社長は問題意識を持っておられるのですか。僕は地元でびっちりやっていくのが好きなんですけれど。中央においても、「平和堂、または夏原平和ここにあり」ということを知ってもらうことは、仕入れに対してであれ、お客さんに対してであれ、極めて有利なことが多いですよね。その辺り、どんなことを感じて進めておられるのかに興味を持っているんですけれど。
夏原
ちょっと控え目に考えています。原点はお客様に我々の店を支持していただくということで、その次はお得意先なんですね。付き合いの深いお得意、先の方は全員知っていますからもう心配がない。ただ、新しい取引先を増やそうという時に「一体平和堂というのはどんな会社だ」を理解して頂く面で、非常にPRが不足していると絶えず思っています。そういう面で、今回こういった店を作ることによって、今まで取引ができなかったところとのお付き合いが随分増えました。そこの部長や専務さんがいらして、店を見てびっくりしてもらえます。
大朏 いや、誰でもびっくりしますよ。
夏原 もう一つ大事なのが、株式上場していますから、株主さんからどれだけ応援していただけるかということです。おっしゃるように、東京の方で「マークがヨーカ堂に似ている」という程度で、全く知らない方が多い。証券アナリストのような方でも知らない。
大朏 東証一部なんだ、ということも知らない。
夏原 ええ。
大朏 これは僕にとっても不満なわけです。多分社員の方も不満だろうし、取引先の人も不満でしょう。取引先の営業マンから見れば、平和堂という会社を上司に説明しなければ分からないというのは不利なわけです。だから、どうしても知らしめなければいけない立場になっていると思います。
夏原 そうですね。三年前から東京で説明会をしたり、社外に対する取材にも積極的に応じたりしているんですが。まだまだ遅れ気味で、これから何とかしなければいけないと思っている。そこでチャンスが、今回の草津とビバシティなんです。
大朏 ターニングポイントになったかも知れませんね。
夏原 爆発的に全国に知られ始めていますから、一つの結果が出ればいいと思っています。それから、先程申し上げた配送センターが、この業界を含めて非常に見学者が多いんです。まあ「そんな会社があったのか、すごいやないか」という方が、いいのではないでしょうか。
大朏 そうかも知れませんね。
夏原 「説明と全然違う」というのよりは。
大朏 それは、社長が正解だと思いますよ。名前をテレビでワイワイ宣伝しているわりには大したことないな、宣伝で食ってる会社だなっていうのもありますしね。そういうことでは、やはりそういう道を行こうとされてるということをお聞きして安心しました。


あえて「社員一番」を標榜したい

大朏 今後こういう会社にしていきたいというビジョンのようなものはおありですか。今のところ、東証一部上場も終わっていますし、例えば、「利益日本一」とか、宣言して引っ込みのつかないようなものを言って欲しいですね。
夏原 売上目標は、もうあまり意味がなくなりました。と言うのも、去年の決算では売上が2,500億円なんですけれど、今年八店舗つくってその店舗がフル稼働すると、500憶円はいけるわけです。すると3,000億になるんですが、店舗をつくれば売れるわけなんです。でも、一番大事なのは中身。中身で大事なのは何かとうと、やはり「社員の幸福度ナンバーワン」、そして「お客様の満足度ナンバーワン」だと思う。この二つを同時に実現するのが来年のテーマなんです。来年がちょうど40周年ですが、平和堂はこれからどうあるべきかということをここ2年間くらい考え、社内の中堅メンバーと話をして最終的に行き着いたのがこの二つなんです。
大朏 なるほど、CSとESだ。
夏原 これはどちらが先だというのが難しくて、半月以上もめましたね。結局、社員が満足を感じられなかったらお客さんも満足できないんだから、社員が一番だと言える会社にしようというのが来年40周年のテーマです。
大朏 いいですね。非常に分かりやすくて。
夏原 これは当たり前のことなんですね。しかし、当たり前のことを宣言し、しかも順位を決めると言うのはその会社の姿勢だと思うんですよ。どうしても小売業となると、お客様財団ですから、「お客様を放っておいて社員一番なんてことがえるか」という人が多いんですよね。
大朏 まあ、お客さんが満足してくれて利益が増えれば、給料も上がり、社員も満足するわけですから、表裏一体ですね。
夏原 その辺りの意思疎通を社員といかに図っていくかが、これからの仕事なんです。やはりローカルから出発していますから、地域や人とのつながりがものすごく大事なんですね。本社もあり、徒業員の7、8割くらいはその地域の住民として生活していますから、町内の色々な仕事だってあるわけです。「従業員が地域と密着するのは、会社が密着するのと同じ」と言っているのですが、社員が地域でどういう評価をされるかというのは重要なことなんですね。
大朏 結局、社員の意識が重要になるわけですね。
夏原 そうですね。それさえしっかりしていい会社になれば、あとは利益が日本一になるか、利益率が日本一になるか、「関東の○○ 関西の平和堂」という立場まで行けるかどうかですね。
大朏 いやあ、是非なっていただきたい。

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雑誌「企業家」1996/7月号より転載。
本欄は(株)企業家ネットワーク様のご好意により実現したことを記し、謝意を表させていただきます。

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