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プロがプロに聞く経営の話
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 教育のノウハウを磨き実業界で役立つ人材育成をめざす
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Guest   駒澤大学学長・法学部教授 雨宮眞也
Host オンキヨー会長 大朏直人


   オンキヨー会長 
Host−大朏直人 Naoto Ohtsuki

「大学が変わるには教員が教育のノウハウを研究し、他大学と競争するべき」と大学教育のあり方に一石を投じ、学内改革を実践する駒澤大学学長の雨宮眞也氏。競争力がなければ大学も生き残れないという氏の持論に大朏氏が鋭く切り込む。
 

駒澤大学学長・法学部教授
Guest− 雨宮眞也 Masaya Amemiya


■ 日本の教育水準は高い

大朏 全国で大学はいくつぐらいあるんですか。
雨宮 四年制の私大が六百。それに短大が約六百ありますから、全部で千二百。人口比からいって世界一ではないですかね。
大朏 われわれ経営者が楽なのは教育の水準の高さのせいでしょう。例えば「昨日こういう問題がありました。今日は気を付けて下さい」と書きます。日本の場合は書いて貼り出せば読まない人が悪い。ところが海外では英語で書いて、中国語で書いてマレーシア語で書いて・・・・・・というようにしないと、みんなに伝わらない。さらに何語で書いても読めない人は読めない。そして読まなくても平気な人もいる。日本人には、一つの品質の問題にしても、すぐにみんなに伝わる。
雨宮 それは私も感じてます。大学が大衆化して教育水準が落ちたとの批判もありますが、全体的な教育の質と量は非常に高いと思います。


■ 大学教育は産業界のニーズに合わない 

大朏 そうですね。しかし、数年前の話ですが、ある大学の工学部の先生が、「パソコンが家庭に持ち込まれ、インターネットが家庭にまで持ち込まれるのに十年かかる」という話をしていました。その時私は、十年なんてかかるわけないと言ったんですよ。うちの会社ではパソコンのできない女の子は一人もいない。女の子達は会社でインターネットを駆使しています。彼女たちが結婚したら、必ず家庭にパソコンは持ち込みますよ、と私はいいました。また、新入社員の話ですが、電話を使えない人は一人もいない。しかし、本当に電話で仕事上の挨拶や応対ができる人間がいない。英語にしても仕事に使える英語力を身につけた者はまれです。経理や技術にしても同じことが言えます。私が言いたいのは、大学の教育は実社会や産業界とはかけ離れているということです。先生は教育の方法に危機感を感じておられますが、大学教育はどうあるべきと考えていますか。
雨宮 今までの大学は研究重視型でした。本来大学は教育と研究が二本の柱です。しかし、実際はどの大学のどの教員も研究を主にし、教育は片手間にしているのが実情です。ところが大学が大衆化すると、多様な学生に内容を理解させなければいけない。教育学専門の教員がその方法を作ってくれればいいんですが、分野によって内容が大きく違うので、それぞれの分野で教育方法を考えなければなりません。私の専門である法学について思うことは、もっと応用的な思考力を育成する教育が必要です。私のゼミでは十年ほど前から毎時間、問題を与えて全員にレポートを出させています。それを私が添削するんですが、これは大変時間がかかります。しかし、こまめに手をかけて考えさせるには、そんな教育が必要だと思います。これまでは問題の理解能力が重視されましたが、今後は新しい問題に直面した時にどう対応できるかという能力が必要でしょう。


■ 大学経営にも競争原理が必要

大朏 確かに教育の方法を考えなければならない。野球部にしろ、駅伝にしろ、学生は四年間しかいないわけですね。そこで監督たちは四年間で優勝を狙える教育法を模索しますよね。そう考えると法学部で五年も十年も教授をやっていて、司法試験をとらせる方法が見出せなければ、教育の仕方を知らなすぎるということですよ。現在、全国に千二百もの大学があるそうですが、五百くらいでいいのではないでしょうか。競争に負けたらつぶれるくらいの危機感がないといけません。少子化の時代を迎えて、日本の大学が見直される、ちょうどいい時期だと思うんですが。
雨宮 お話のように、箱根駅伝などのスポーツ先端分野では、科学的なトレーニングが定着してきました。しかし、法学においては今も頑張れ頑張れのガンバリズムです。目的に到達するプロセスをどうするのかという方法論がない。学生の成長を促すノウハウが大学にはない。ポイントは教育における競争力です。
大朏 なにか具体的な工夫はあるんでしょうか。私の学生時代、ずっと目をつぶって話をする教員がいました。思い出したことを話して、書く。その繰り返しでした。そんな教員に対する評価はあるんでしょうか。
雨宮 これがまだ開発されていません。アメリカでは学生による授業評価などは当たり前です。しかし日本では「学生に教員を評価する能力があるのか」と必ず反論が出ます。そこできちんと授業に出ている学生にアンケートを取り、集まった回答を各教員に配るという方法をとっています。しかし、それが教員の昇格や、給料に反映することは全くないんですよ。将来はそういうものも教員の評価につながっていくはずです。
大朏 先生は知的生産力の高い都市型大学を目指すという方針で、さまざまな新しい手法を実践されています。都市型大学のイメージ、駒澤大学を卒業した学生のイメージはどのようなものでしょうか。
雨宮 駒澤大学の理念は非常に明確で「行学一如」です。字の通り理論だけではだめ、実践を伴わなければならない。学問だけでもだめ、人間形成にも努力しなけれなならない。この「行学一如」を体得した人間に育ってほしいと願っています。また時代は激しく変化しています。時代や社会の変遷についていける柔軟な思考力をもった人間を理想としています。田舎は伝統的な慣習の中で生きていける社会。しかし、都会は対立する価値観の混在する社会です。そこで生き抜くための柔軟な能力を持った人間を育成するのが、都市型大学だと認識しています。


■ 自由化が必要な教育界

大朏 現在、さまざまな分野で規制緩和が進んでますが、教育には規制緩和が見えない。言いにくいでしょうけど、こんな規制があるんだというものがあれば、ぜひお話を。
雨宮 私が一番問題と感じているのは、東京二十三区内では教室を増築してはいけないという規制ですね。例えば、今教室で使用している机はパソコンが置けない。もう少し広い机を入れたいと思うけれども、そうすると今まで百人入っていた教室が、五十人しか入らない。そこで教室をもう一つ作ろうと考えますよね。しかしそれが規制で、できないんです。また、新しい学部を作り、新しい学生を採りたいと申請しても、さまざまな理由で規制されます。大学にはモノ、ヒトにさまざまな規制があります。新しい学科を作ろうと思うと、じゃあ法学部で十人減らし、文学部で十人減らし、中でやりくりしなさいと、学生の人数と入れ物の容量を規制されます。それから教員については、論文を何本出しましたか、賞取りましたかと、旧態依然の基準で評価する。実社会での活動を研究歴、教育歴として全く認めないのです。ですから最高裁判所の裁判官でも、教育審査に通るとは限りません。
大朏 学長が教授にしたい人を推しても、文部省がだめだというんですか。
雨宮 まずその前に大学の中でほとんどがつぶされますね。教授の大半が研究室、助手とずっと内部でやってきた人ですから。それ以外のキャリアを認めたがらない。自分の育ってきたキャリアが唯一絶対の価値と思っていますから。
大朏 教授になるには試験があるんですか。
雨宮 ないんです。大学設立の時は文部省の審査がありますが、設立後は各大学の判定です。
大朏 医者は何年かに一回、研修によって医師免許を更新することを考えてますね。大学の教授は一度なればずっと大学教授。変な話ですね。
雨宮 学生の評価を受ける人気制度の話はありますが、肝心の教授は絶対に賛成しません。一歩踏みこまないと新しい展開が期待はできませんね。
大朏 大学教育は規制の中でぬくぬくとやってる。
雨宮 だから外からの規制が緩和がされても、内部の規制が働くのです。
大朏 規制があるほうが、暮らしやすいんでしょうか。企業は社外取締役制度を取り入れるようになりました。大学も学外の委員を募れば面白いかもしれないですね。
雨宮 世間の評価をオープンに受けて行く姿勢は大事でしょうね。
大朏 文部省の規制がいやなら、助成金を受けなければいいんですか。
雨宮 助成金はいらないと言えばいいかもしれません。しかし、設立時だけはだめですね。
大朏 やっぱり他の産業と同じ考え方ですね。助成金を出すんだから、言うことを聞けと。理由はないが、お上のいうとおりにしろといってるようなものですね。だから助成金出してないと何も言えない。言いにくいことを言わせてしまって申し訳ないです。
雨宮 いやいや、ぜひともこれは活字で強調してほしいですね。
大朏 文部省と教育行政のことが、こういう一般の雑誌に載ることは少ないですからね。
雨宮 規制を数えだしたらきりがない。本当に教育は規制緩和が遅れてる分野ですよ。
大朏 一般市民は直接影響しないから、あまり不満を感じないんですよね。産業界でそんな規制があったら、市民の生活にまで影響が出ますからね。
 


■ 産業も教育も国際競争が必要  

雨宮 教育界には外圧がないですね。一時期、アメリカの大学などが日本校を設立して日本に乗り入れを計画したようですが、文部省は正式な大学として認めなかった。そして、アメリカの大学も日本に進出するメリットが見出せず、進出する意欲が薄れました。アメリカのもっと名のある大学が東京に進出を計画し、文部省に申請して却下されたら国際外交問題にもなりかねないでしょう。他の業界でも、たくさんあったじゃないですか。
大朏 大学は国際化もほとんど進んでないわけですね。
雨宮 教員の交流とか、研究成果の交流はありますけど。設立運営面での競争はないですね。
大朏 ハーバード大学とか、MIT(マサチューセッツ工科大学)が日本進出すれば変わりますかね。
雨宮 それは本当に刺激になりますよ。大学のあり方、研究水準、競争原理も働くようになるでしょう。黒船来航の最たるものになるでしょうね。
大朏 文部省はなぜそんな規制をするのでしょう。
雨宮 自分たちが監視し、保護していかなくては成り立っていかないと思っているのではないですか。
大朏 自分たちが見てやらなきゃなんて、傲慢もいいところですよね。
雨宮 大学の定員だって、学生を採りたい大学は採ってもいいと思います。そうすると特定の大学に学生が集まって、他がつぶれるでしょう。実際、高校はそうです。大学では定員百人でも、八十人におさえて二十人は他の学校にまわせと言われます。そうすれば助成金を出す。だくさん採るというと、助成金はなしですね。
大朏 コメの減反政策みたいですね。
雨宮 農林水産省も文部省もやることは共通してますね。


■ 産学協同で一流の社会人を育てる 

大朏 私は産業界と教育界との交流がもっとあればいいと思っています。経営者が経営学部の一日教授になって講義をするとか、産学協同や交流についてどのようにお考えですか。
雨宮 賛成、というより必要ですね。教員も一度企業に行って実業を研修してほしいですね。海外に留学もいいですが二度目の留学は企業に研修に出て、自分の研究がどう生きているのか、あるいは生きていないのか研究してほしい。企業人に来ていただけるなら、例えば銀行論は、銀行の頭取さんに来てもらって講義してもらえれば、とても刺激のある授業になりますよ。法律論なら、弁護士や裁判官、学者や実務出身の人などさまざまな人に来てもらって、違う立場からの講義が受けられれば、学生はものを考える契機になるに違いありません。
大朏 今、多くの大学でベンチャー講座を開いています。駒澤大学ではどうでしょうか。
雨宮 やりたいですよ。本学は少し遅れをとってますが、それでも昨年、経営学部で創立三十周年記念ベンチャー論文を募集しました。
大朏 学生がベンチャービジネスを発表して、それを事業化して面白いか面白くないか議論するんですね。ワタミフードサービス社長の渡邉美樹さんも来てましたね。ソフトバンク社長の孫正義さんや渡邉美樹さんなどが先生になって講義をすれば、学生には大変な刺激ですよね。
雨宮 一回講演してもらうだけでも大変な刺激になると思います。視野が広がりますよ。
大朏 学生に主体性が出てくると思います。
雨宮 当代一流の人物に触れることは学生の視野を大きく広げるでしょう。しかし大学は長年やってきた学部の授業にさえ教育法が確立していない。まして新しくやるとなると全く白紙です。むしろ社会の方が一歩進んでいます。本来大学というのは最先端の開発をして、社会をリードして行く存在なのに、逆になってるんですよ。


■ 生きがいを提供できる企業が生き残る

大朏 逆に学校側から今の産業界についてなにか注文はありますか。
雨宮 やっぱり卒業生が充実感、やりがいを持てる企業であってほしいですね。ここならば自分の全力を投じてもいいという生きがいを感じられる企業、あるいは業界であってほしいと思いますね。
大朏 実際、社員のそんな心に応える経営をしているところは生き残りますよ。先生がおっしゃるとおり、社員に生きがいを感じてもらえるような会社を私も経営したいと思いますね。


雨宮眞也(あめみや まさや)氏

1935年生まれ。山梨中央銀行を経て、1956年中央大学法学部法律学科に入学。在学中に司法試験に合格。1962年弁護士登録。1969年駒澤大学法学部講師に就任。助教授を経て教授、法学部長・副学長を歴任。1998年第28代学長に就任。
大朏直人(おおつき なおと)氏

1941年東京生まれ。65年駒澤大学文学部卒。同年4月、ラジオ部品メーカーに入社後独立。電子機器製造の日本電通を設立、社長に就任。85年、自動車部品メーカーの丸八工場(現テクノエイト)の再建を契機に、4社の再建に成功。93年6月に東芝傘下のオンキヨーを個人で買収、1年半で黒字経営に転換した。現在、12社の企業集団を率いる。

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雑誌「企業家倶楽部」2000/10月号より転載。
本欄は(株)企業家ネットワーク様のご好意により実現したことを記し、謝意を表させていただきます。

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