| 大朏 |
|
私はバブルのとき、あのNTTの株さえ買いませんでした。銀行はカネは貸す、工場を建てろ、としきりに言ってきましたが、うちは物づくりの会社でそれしか能がないんだから、株なんか買わないと言いました。あとで「あのとき買っていたら、今日二百万円もうかったのに」なんて言われましたが、一度言った手前買うわけにいかなくて・・・・・・。最後の頃、やっと買おうかと思ったら、バブルがはじけたんです(笑)。 |
|
| 奥田 |
|
それは大朏さんが偉かった。経営理念を持っている会社というのは、経営者がそういう信条を持っているんです。うちはたまたま豊田英二(トヨタ自動車最高顧問)さんが、大朏さんと同じ考えでしたね。私が経理担当で転換社債の発行をしたとき、私などはどうせ株価が上がって株式に転換されると思っていたのですが、豊田さんには「もらったと思うな。これは借金だろう」と数十回言われましたね。あの人は大学を出て紡績をやっていたから、相場を手がけていて、カネの恐ろしさをよく知っていたんです。株などというものは高いときも安いときもあるんだということを教えてくれましたね。 |
|
| 大朏 |
|
確かにおっしゃるとおりですね。 |
|
| 奥田 |
|
物づくりの会社というのは、現場でみんなが一銭一厘のビス一本をおろそかにしないよう気を使い、汗を流しているのに、経営幹部が一度に何億円も得したり損したりするカネの運用をやっていたら、現場がおろそかになるし、働いている人もやる気をなくしてしまう。それでは、いい製品も技術もできない。両方うまくやっていくのは無理なんだから、物づくりなら物づくりでやっていくのが一番大事なことなんです。不器用はいいことだとよく言うが、そのとおりです。 |
|
| 大朏 |
|
奥田会長は故小渕前首相の主宰する「ものづくり懇談会」の委員として提言もしていらっしゃいますね。 |
|
| 奥田 |
|
あれは小渕さんに対する最後の提言になりましたが、その結論は「物づくりは人づくり」というものでした。物をつくる人間が浮気をしてはいけない。若い人が物をつくれなくなったというが、それは教育の問題のほかに、周囲の「俺はいくらもうけた」などという雑音のせいもあると思います。人間だから、そちらに考えが向いてしまって、力が入らないということがあるんです。でも、それを失ったら、物づくりとして立っていけません。だから最近の日本ではロケットが落ちたり、トンネルが崩落したりする。頑固なまでに物をつくるという姿勢を会社は持っていかなくてはならないんです。 |
|
| 大朏 |
|
トヨタの中には、ものすごく徹底的に合理性を求めている部分がある一方で、各工場に匠工房を持っていますね。火花ひとつ飛ばしても、そこにマンガンがいくつ含まれているかわかる、溶接はこうだ、旋盤はこうだ、ということを未だにしっかりやるという両面性がある。一般市民はトヨタには職人的な人はおらず、すべてオートメーション化されていると思っているかもしれませんが、本当は匠の職人がちゃんと仕事しているのを見せてもらえるんですよね。これは物づくりの原点です。これはトヨタのDNAとして残していくのですか。 |
|
| 奥田 |
|
そういう分野は減っていくと思いますが、残していかざるを得ないでしょうね。提言書にもありましたが、人間の知恵には暗黙知と形式知があります。暗黙知とはマニュアル化できない一種の匠のノウハウ。形式知はマニュアル化できるものです。人間の知恵をITなどでコンピュータ技術に転換していく部分は増えていくと思います。でも、やっぱりゼロになることはない。暗黙知=ノウハウは最後まで残っていきます。
|
 |
| |
| 大朏 |
|
それは海外への技術移転などの問題にも関係してくることでしょうか。 |
| |
| 奥田 |
|
そうですね。外国では同じ材料、同じ機械、同じ条件で物を持ち込んでも、暗黙知がわかっていないことが多い。それは汗と努力で身につけるものです。図面渡して、この材料使って・・・・・・ということは教えられるが、ここはこうするんですよ、温度はこうで・・・・・・といくらいっても理解してもらえない部分がある。それを向こうは核心部分を教えてくれない、技術移転をしていないと怒るわけです。 |
|
| 大朏 |
|
難しいところですね。 |
|
| 奥田 |
|
戦前のトヨタの工場を映したフィルムが残っているので、それを東南アジアの人などにもっと見せるように私は言うんです。当時は湯温を見るにも、指を湯に突っ込んで見ているんですよ。うまい天ぷらをつくる職人も、天ぷら油で同じことをやるでしょう。そういうことが世界ではもちろん、日本でも減りつつある。でも、それができるのは人間の力しかない。ITでやればいいといっても100%はできないんです。 |